第四章 まちづくり教育の例


第2節 理論を還元するモデル

 実際の理論を知ることはまちづくりにおいても必要なことであり、まちづくりが「参加」の次の段階へ進むためには必ず必要な点である。前節のような実際の問題点と照らし合わせながら行う手法には人を引きつけることがあっても、それに留まることが多く、時間的にも限りがあるので、理論の全てを説明することは不可能である。そのため前節の物は「意識化」を促す物として取り上げ、この段階に繋げることでこの節のように理論を知り、実践(還元)するという作業が生きてくるのである。

 このモデルはシミュレーションという物が、実際に行うことが出来ないものに対して有効であるというシミュレーションの特性を活かしたものでもある。


環境政策を分析し評価する
 SimCity 3000には大気汚染や廃棄物問題の対策となる条例が1900年代後半から施行できるようになっており、各条例のそれぞれの特徴を活かしながらも、財政的な評価をする事も可能である。その条令の例を挙げる。

  ・ 産業廃棄物税
  ・ 空気清浄運動
  ・ 埋立地からメタンガス転用
  ・ 排気ガス削減運動
  ・ 生ゴミを堆肥に

 各条例にはそれぞれの効果があるので、その特性を活かして対策方法としてSimCityに用いるようにする。SimCityは一般のゲームとは違いこのような条例でも全て施行すればよい、というものではなく、それぞれのメリットとデメリットを考慮に入れて運用しなければならないというのは現実とも同じである。また、SimCityを用いた活動によって条例を施行するときに財政や環境、都市発展状況などを踏まえ都市がどんな状態であるのかというのを調査して分析し、解釈と評価の後結論の評価をするという「システムズアプローチ」の手法を仮想的に実践するいわゆる教育シミュレーターとしての利用も可能である。活動の例を以下に示す。

@問題の発生を確認
 ここで取り扱う問題というのは「大気汚染」としよう。SimCityではclassicから大気汚染の要素が含まれているが、SimCity 2000から条例の要素が組み込まれ、立地法による解決だけではなく制度的な規制をすることが可能になった。この条例にはダーティな産業を抑制することで汚染を減らすものや、教育水準を上げることによって技術レベルを上げてクリーンなハイテク産業などに工業自体の変革を及ぼすものもある。また、前者のような規制的な手段によりダーティな産業を抑制することによってクリーンな産業を発展させるという間接的(技術的外部効果)もシミュレーション内で結果的に再現されているので、それを考慮に入れてBを行うべきであろう(これを利用して外部効果についての説明をすることも可能である)。

 SimCity 3000で実際に大気汚染が発生した場合にプログラムは次のような反応を示す
  ・ 市民もしくはアドバイザーが大気汚染が深刻になってきたと提言する
  ・ 調査ツールを使って建物のある土地の大気汚染レベルが高くなっている
  ・ データマップウィンドウもしくはレイヤーで汚染の状況を見ると汚染範囲とレベルの確認が出来る
  ・ グラフツールを使って都市の全体的な汚染レベルはどれほどのものであるのか確認できる

 その他にも汚染が広がることによって地価が低くなるということや住環境悪化のため犯罪率上昇ということもシミュレーションは表現する。しかし、ここでは目的を大気汚染の対策法としているためそのような影響に関しては余談程度で終わらせるのがベストであろう。
 
A問題が発生した場合に対してその要因の明確化を図り、調査を行う
 大気汚染マップを見ることで都市全体から見て、一体どこが大気汚染のレベルが高いのかを探し出し、どの建物がその汚染源となっているのか探るためにレイヤー機能、そして調査ツールを使い、高いレベルの汚染を排出する建物や地区を探し出す。ここではゲーム内の手法でのみ調査するわけだが、実際の調査方法について教授する場合は、その違いと問題点について後にレポートさせることもでき、実際の調査というものがいったいどんなもので、どのような問題点があるかを調べ、どうやってそれを上手に利用するかを考えるきっかけにもなる。

 また、この時に汚染源を特定することが可能なのだが、なぜその汚染源は汚染レベルが高いのかという因果関係を調べることを忘れてはならない。SimCityでは表示される汚染の数値や発生時間などはゲーム性を重視しているために正確なものではないが、その間にある因果関係についてはSimCityをプレイするプロセスの中で見つけることは可能である。そしてその因果関係を考慮して、問題の根本は何なのか、いったいどのような変化によってこれが発生し解決できるのかを見いだす作業が必要である。場合によっては大気汚染の影響が発電所や工場から発生している汚染だけにではない、ということを分析する必要が発生することもある。例えば交通量の増加による大気汚染の影響を調査する場合、先に挙げた大気汚染についての調査以外にも交通量の調査が必要である。これによってなぜ交通量が増加しているのか、その原因は何であるのかといった点からアプローチすることができる。SimCityでは交通量のシステムは発生交通量方式を採用しているため、建物の規模や人口密度、移動先の状況(雇用人数、娯楽施設の誘因)などにより交通量が変化する構造になっており、交通面からの原因の特定がある程度は可能である。確かに数字の算出が出来ないのではあるが、あくまでもプロセス学習の場合においてはイメージで十分であると言える(SimCityの交通の構造を利用した交通需要予測についてのプロセス学習の可能性については目下研究中である)。

B分析を行う
 調査によって導き出された関係についての分析を行う。

[発電所のケース]
発電所ならば現在どの発電所を使用しているか、どこに立地するべきか、果たしてそれは電気の需用量に対して過剰ではないだろうか、といった発電量と使用量の関係を分析することも出来る。それによって新技術のクリーンな発電所の導入を検討する、電気の使用量を減らす為に「電灯の自動化」や「電力節約」の条例を施行して必要十分の発電所に変える、これからの都市の発展を考慮した電力需要の予測を図るといった方法の分析を行うことが可能である。しかし、発電所に関しては都市を支える根幹的なエネルギーのため、あくまでもその相関関係を利用するのであって、実際に発電所を建て替える事をすぐに行えるものではない、ということも注意させる必要もある。その為、施設配備計画、事業に対しての費用便益分析と環境影響評価、条例の効果と運動の流れという学習には適していると言える。

[工業地帯のケース]
 工業地帯にはダーティとクリーンという根本的に汚染量が異なる産業の2種類の工業が教育水準や条例などによって変化するのでまず、産業自体がハイテク化が進んでいるかというのは大きな問題と言える。プログラムではハイテク産業が始まったことを知らせるメッセージや建物のグラフィックによってそれが確認できる。それを踏まえた上で、工業地区や建物の規模や立地といった面から分析することが可能である。
 以上のような物の他にも先ほどあげた交通量と建物の関係や工業の需要の問題、クリーンな産業を推進することが出来る教育レベルの問題、ゴミ処理の量による大気汚染等をこの時点で分析することで、次のステップに活かすことが可能である。

C対策法を打ち出す
 SimCityには攻略法として大気汚染の対策という物が存在はするが、スイッチ型のゲーム*と違いプロセスを通じて変化するものなので、効果的で絶対的な手法という物は存在しない。例えば条例による汚染の抑制という物があげられるが、必ずしもそれが大気汚染を抑制することが出来る全ての手法でないことは今までの説明を考慮に入れていただければ分かるだろう。立地手法や汚染の少ない技術の施設等と言ったハード面からの解決法、規制的な条例などのソフトな面からの解決方法もあるが、そのような直接的な対策法の他にもハイテク産業を推進する条例や教育施設の充実などといった間接的な面からのアプローチも可能である。この場合、すぐにSimCity内での対策法を全面に出すのではなく、学習者から提起させる事が重要である。その中では経済的な手法は考えにくいためその説明はプログラム内部でどう表現されているかという事を説明することによって新たな発見があるだろう。大気汚染とは異なるのだが、SimCityでは産業廃棄物税のような課徴金によってダーティな産業が衰退しクリーンな産業が発展するという構造を利用しながら、税という外部費用により引き起こされるという経済学の外部効果の説明をすることは可能である。

D対策法の評価
 先に挙げられた対策方法はどれほどの効果があるのかを確認するにはSimCityのシミュレーションによる評価をするのが一番良いだろう。条例を施行したらどうなったのか、新型の発電所はどれほどのものなのかという点は実際に行って確認することは可能であるが、様々な要因と重なってくるためその原因の特定は難しい場合が登場するかもしれないのでその点は注意しなければならない。また、SimCityには限界があるが、逆にその限界は限界としてあげておき(時にはなぜ限界なのか、という点で現実の手法と比較することも出来る)、むしろその幅の広さ故の相関関係から新たなる対策方法を導き出すという実利に伴った活動が出来る。

 必ずしも出される数値は正確なものではないが、続けて実際の事例に数値を与える独自のシミュレーション教育を展開することによって、従来のような対策手法を単に覚えるのではなく、その関係性、因果性を学ぶことによって使いこなすことに重点を置いて学習することが可能になるのである。もちろん、シミュレーション教育同様それで全てが解決するわけではないが、このような作業をすることによって物事の普遍的相関関係を見いだし、それ実際に活かす事を目的とすることがまちづくり教育そのものの姿でもある。これは条例という制度的なものを利用したものだが当然、土地利用についてもシステムズアプローチを利用した方法は可能である。
*スイッチ型のゲーム・・・ある特定の行為をするとスイッチが入り、形としてどこかに現れるというゲーム。プログラム作成時に時間的な経過を想定して結果を用意しておくため、イベント発生の発生などに使われる。ロールプレイングゲームに良く用いられる手法。
[←前へ] [目次に戻る] [次へ→]