第四章 まちづくり教育の例


第1節 現実理解モデル

行政を知る
 一般的に行政というのは「御上」として、自分たちをとりまくものがまったく自分たちの関係とないところで物事を決めているようにも扱われており、住民にとって大きな「壁」となっている。近年の情報公開や市民活動の流れにより行政がより住民に近い形を取るようになって壁を崩してきているのは事実であるが、未だパートナーシップという段階の入り口でしかない。住民側の突き上げで行政を崩していくだけではなく、ここの学部学生のようにこれから行政に入っていであろう学生達にも、行政に反対するようになる学生にも、高い意識での縦と横のパートナーシップ14)を目指す意識化が必要である。その為に行政側のシミュレーションSimCityを通じて都市の問題に取り組み、その中から実際の都市のワークショップやまちづくり条例、トラスト運動などの必要性・重要性を知り、活動をより高度なものとすることも見つけだすかもしれない。

 SimCityをプレイするだけで行政と同じ事を自分が行っているという事に気づき、行政の問題の構造が見つかることがある。例えば、財政的な取引による廃棄物処理の問題、汚染を出す施設の立地の問題、災害時に下すべき判断や防災的な無計画、財政を顧みない公共投資、数値だけで生活指標を図る現代社会などその種類・範囲は様々である。これらはすべてSimCityをやることで自身の中に見つけることが出来るのである。もちろん、それはほんの一部であることはわかるだろうが、「なぜ」そうなるのかという原因の部分には住民が触れることは少なく、的はずれな「政治悪」の話に終わることもある。しかし、まちづくりが目指すものが、官と民とのパートナーシップの確立であるならばこれは真剣に取り組むべき問題であり、これからのまちづくりの流れを大きく左右する問題であるため、非常に大きな問題であるが念頭に置いていかなければならない点である。

 このモデルを利用した教育方法として、グループを数人で組み、一つの都市を運営するといった方法があげられる。SimCity 3000では部局(市局)が7種類に分けられているため、7人+市長役1人で都市運営をしてみるのがベストであろうと思われる。これは行政をロールプレイングするという面からのアプローチでもあり、その部局の役割をすることによってその専門的な知識を集中的に学習できるという効果がある。場合によっては教室内でグループ別に活動をしながら、論議と理論を戦わせる、全体の前でプレゼンテーションする、といったことも可能である。また、グループによるマスタープラン作成という利用法については次章に述べておく。


建物の立地だけではなく、条例の制定や
それに関わる財政的評価も行う。
 これはあくまでもその専門家が行わず、学生や市民が行うものなので強い縦割りは発生しないが、それぞれの言い分、考え方を戦わせるという点はまちづくり教育が目指すものでもある。個人ではいささか弱い学習意識を都市という共同体グループの中で高めることができ、また進路を決めかねている学生に対しても、SimCityで理論を用いて都市を経営するためにその専門の勉強をしてみることによって何かしらの影響を与えるだろう。

これは、クラス単位で行うことも出来るのだが、可能であれば研究会Webサイトを利用した可能性にも追求したい。研究会で行う場合は学生達が専攻に合わせた行政を行い、市民という役割をもつプレイヤーと合意形成しながら都市を形成していくものである。この場合は実際と同じく素人である市民側を支援したり行政との間を取り持つNPO役が必要であるが、都市情報学部学生ならばある程度その役割をすることが出来るだろう。そのプロセスの中で市民側の活動にはどういったものがあり、行政の手法としてはどんなものがあるのかを合わせて説明できれば新しい形のまちづくり教育が出来る可能性もあるだろう。


 このような現実理解モデルには他にも、大型商店による周辺への経済的空間的影響、大気汚染問題、高層マンションの問題、スプロール化現象などを利用した形が考えられる。しかし、混住化の問題や生態系破壊といったものは、その発生要因について知ることが可能ではあるがシミュレーションから問題解決手法を学ぶことはほぼ出来ないといってよい。あくまでもSimCity利用だけで問題解決の手法が学べるわけではないため、どこまで行うかが利用するポイントになる。またそれは、SimCityをこのモデルでもちいることは、利用方法によっては非常に中途半端な物に陥りやすい欠点があるということでもある。

 逆に、このような特性を活かしてシミュレーションを行わせることによって、一体自分に何が出来るのかを考えさせ、まちづくり参加を促すようにする方法も考えられる。この場合、シミュレーションを行った後にトラストやグランドワーク活動による問題点解決の流れなどをあげることも出来るだろう。
14) 佐谷和江・須永和久・日置雅晴・山口邦雄『市民のためのまちづくりガイド』学芸出版社,2000
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