終章


これからの展望

シミュレーション学という教育

 シミュレーションというものの本質が教育であるというのはこれまでに述べてきたことだが、交通シミュレーションや水流量シミュレーション、景観シミュレーションなど従来の「都市」に関わるシミュレーションはあくまでも行為予測、合意形成のためという要素が大きく、その専門的な分野での利用法でしかなかった点は否めないだろう。シミュレーションを通じて都市の教育を行うというものはゲーミングシミュレーションの中に存在するが、それも「まちづくり」というものではないことは明確であろう。そもそも「まちづくり」自体がシミュレーションで表現出来るものではないといえなくもないが、その発想はシミュレーションというものを理解していないともいえる。特にコンピュータを利用したシミュレーション教育では従来のシミュレーション教育のようにシミュレーションの作業の煩雑さにとらわれないため、シミュレーションを単なる仮想的なプロセスとして用いながら従来培ってきた教育を吸収させながら行うことが可能になるのである。SimCityが優れているとして取り扱ってきたのはそういう点で非常に優秀であったからと言えるからである。また、そう考えると「まちづくり」というものへの利用の形は第X章でその形の片鱗を見ることが出来たと思う。シミュレーションは所詮シミュレーションである、先のことを完全に予測することは出来ない。予期せぬ事は運が悪かったですませられるのはゲームだけである。その為にあらゆる状況にも対応出来るようにすることこそがシミュレーションの本意であり、シミュレーションだけの教育には限界があるのだということを知っておくこともまた重要であろうし、これがシミュレーションを用いた特殊な学習体系を形成する必要があるという証明にもなるだろう。

 コンピュータを用いたシミュレーションは、これまで培ってきたものをコンピュータ化することではなくコンピュータをツールとして使いながらこれまで培ってきたものを利用するということが本来の使い方であるようにも感じる。ともすればまったく新たな利用法としてシミュレーションというものを考えなければならないだろうし、シミュレーションを利用するという種の学問がこれから続々と登場することもあり得るかもしれない。都市シミュレーション学もその一つであると私は思っている。専門的なシミュレーションを昇華させたものが「シミュレーション学」ではなく、シミュレーションの手順を用いながら学習・研究していくものが「シミュレーション学」であるということだろうか。今は一部の学生の論理でしかないだろうが、コンピュータか時代と供にこの領域が大きくなってくると私は信じている。


研究会の展望

 研究会は発足してまだ1年未満、会員はオンライン会員とゼミ生を入れて十余名。活動は非常に零細であり、実績もこれといって取り上げるようなものはない。しかし、その活動の中でシミュレーション学と言うものを見いだし、まちづくり教育への利用が可能なのではないかというわずかながらの光明を見いだすことが出来たと思う。これからは研究会の半分を組織していたゼミ生も卒業し、会員・活動ともにインターネットを利用したオンラインでの研究会の活動が中心となっていくだろう。必ずしもそれだけで成果が出るとは限らないが、現在「まちづくり」というあいまいでともすれば危険な影響さえ与えかねないこのテーマを非常に有効に広めて、昇華させているのもインターネットなのである。その点を踏まえていっても十分にその可能性は見いだせるだろうし、非常に極視的になりがちなまちづくりというものをよりオープンワイドに地域自体を考えながら行うという事が可能になるだろう。また、自分たちで新たなものを形作っていくというプロセスはゲームの枠を超え、予期もできないような変化をもたらすだろう。

 都市シミュレーション学研究会は、その完成されていない学問を実際に行うということを行わなければならない。その為にそのシミュレーション教育の実施にはそれなりの形を示すべきであるだろうし、そのサポートセンター的な役割を持つことが望まれてくるだろう。となるとNPOのような一組織としてその関連の作業を行うことも可能であろう。本論文内で研究会が行うべき点を多く上げているのであるが、こうなれば一番良い形でその実現を図ることが出来るのではないだろうか。前例のないものだけにその導き手が必要であろうし、その橋頭堡となるものが必要であろう。とりあえずの研究会の目標として、今までの都市シミュレーションソフトの検証というものを踏まえて都市シミュレーション学の一体系を前面に押し出して行こうと思う。さしあたって行うことは第X章のような都市シミュレーション学の講義のようなものをインターネットを利用した特殊な形で行うことを目標とする。その利用にはMacromedia社のFLASH、もしくはSHOCKWAVEを用いることを考えている。今後の活動は研究会Webサイト「シムラボ http://www.gem.hi-ho.ne.jp/hisa-matsumoto/(http://simlabo.main.jp/に変更)」にて見守っていただきたい。


おわりに〜未だ見ぬ都市情報学へ

 SimCityを研究テーマとして一年間行ってきたわけだが、必ずしも目標が達成できたものではなかったと言える。都市シミュレーション学という目標を掲げて来たもののその浸透はせず、若干の形を見いだすことは出来たもののあくまでそれは仮説でしかない。そればかりかSimCityを利用するということが及ぼす効果とともに大きな障壁も浮かび上がってきた。しかしその障壁をクリアするべく研究会の体制も確立されつつあるし、学問の体系化作りへも大きな進歩があった。この可能性はこれから高めていくとしていいだろう。

 この研究をしてふと思ったのは、大学生である自分は本当に大学生であったかということと、本当にここでは大学教育、すなわち専門的な教育があるべき形として行われてきたのかということである。「都市」を主題として置き、「情報」という科学の手法を用いることによってその解決・創造を行う。そして各専門分野を複合させる目的があるのにも関わらずそれは学生自身への期待としてかかるだけであり、単なる従来のような専門家の育成や公務員の養成をしているだけに終わってはいないだろうか。GIS、CGシミュレーター、表計算のようにコンピュータを利用するだけなら別にどの大学・学部でも行われてきているだろうし、それこそが「都市情報学」であるということはいえないだろう。しかし、私はこの研究を行いながら気がついたことはこの都市シミュレーション学の行っている情報処理を用いることでしか出来ない学習・研究活動こそが都市情報学の一つの形ではないだろうかとさえ思うのである。コンピュータを用いたシミュレーションによって都市に関わる様々な物(情報)を学習し、その理論還元と創造を目指す。また、シミュレーションというプロセスによって経済・経営、財政・行政、地域計画、環境・開発というもの全てが情報処理という手法の中で行えるという事さえも可能となり、インターネットやソフトウェアを使うということがシミュレーション学習を行う中で高度に利用できることが可能になると思うのである。コンピュータが作業を容易にしてくれるものではなく、コンピュータにしかできない手法を利用することこそが都市情報学であると仮定するならば都市シミュレーション学のようなものもその一つの形として考えてもおかしくはないのではないだろうか。

 この研究を続けてこられたのも多くの人の手助けがあったからであり、ご指導を頂いた松本教授、会の補佐をしてくれ何かと相談にも乗ってくれた近藤氏、ハードウェア関連で協力を頂いた森氏、会の活動を支えてくれた生駒、示村氏、そして研究会の会員、Webサイトを見ていただいた方々への感謝の意を表してまとめとする。
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