SimCityの開発者 Will Wright


スタジオハード 編,Macintosh版 SIMCITY都市づくりパーフェクトマニュアル,ビジネスアスキー,1990

小説がふくらんで出来上がったSim City
 
※スタニスワフ・レム(スタニスラフ・レムとも)のCyberiadaというタイトルの小説の中の一節で「第七番目の旅」。The Mind's I Vol.2を見たものと推測される。詳しくはこちら
いまでも、たいへん気に入っている短編小説があります。きちんとした題名は忘れましたが、とても有名な小説で、たしか「七番目の……」とかいうタイトルでした。人工的に箱庭を作るロボットが主人公で、その中にシミュレートされた人間が住んでいる小さな王国があって……といった感じの話です(※)。
 実はSimCityのアイデアは、ほとんどその話がもとになっています。ほかにも、多くの都市計画に関する本から、参考になる資料を得ました。
 とにかく関係がありそうで読める本をすべて読んでいるうちに、ゲームをどういう形にすればよいのかが、おぼろげにみえてきたわけです。

 そこから実際にSimCityのプログラムを始めてみると、Macの場合、マルチタスクの問題にぶつかりました。
 SimCityは異なったふたつのプログラムから組み立てられています。
 ひとつはエディタで、これはすべてのI/Oまわりとグラフィックスとアニメーションを処理します。 Macのハードウェア能力の問題から、プログラムのほとんどはアセンブラを使い、グラフィックスやその他の特別な処理はCで書きました。
 もうひとつは、実在都市のシミュレーションプログラムで、これはすべてCを使いました。

 ところが、これらは異なったスタックとレジスターセットをもっており、このふたつの間では、1秒間に60回程度、タスクの切り替えが必要になるのです。
 すでに解決していることですが、最初のころMac上ではほかの機種(たとえばマルチタスク機能のあるAmigaや、プログラマーがマシンのすべてをコントロールできるIBM-PCなど)のようには、その切り替えがうまくいきませんでした。とくにQuickDrawとのコンパチビリティや、MultiFinder上でなかなか動かないといったことに苦労しました。

 ほかにたいへんだったのはカラー版のコードですね。カラー版のコードを書くのに2ヵ月もかかりました。たった20ラインのコードだったにもかかわらず、です。まる2ヵ月間というものは、どっぷりMac漬けでした。その成果として、とても完成度の高いコードになったと満足しています。
 あとの残った部分のプログラムを書くのは、まるで下り坂を転がるように簡単なことに思えました。

私が信じているのは直感
 このゲームが話題になってから、私がどんな人間であるか多くの人に質問されますので自己紹介をしましょう。

 私は1960年1月20日に生まれ、幼小をアメリカ南部で過ごしました。大学には4年間通いましたが、学位はもっていません。しかし、いろいろな学校に通って、さまざまなことを学びました。機械工学や、建築、航空術などです。
 もともと、コンピュータにのめり込む前から、ロボットを作ることが大好きでした。またラジコンで動く車やグライダーにも夢中になりましたね。とくにグライダーはいまでも作っています。スキーもやりますし、プロフェッショナルラリーのドライバーだったこともあります。

 コンピュータを最初に購入したのは1980年でした。ちょうどAppleUが出たばかりのころで、友達からそれを買い求めました。当時はコンピュータのことはなにも知らなかったのですが、ともかくすすめられるままに買って、遊び始めたわけです。
 それからは、ほとんど一日中コンピュータゲームにかぶりつきで遊んでいるようになりました。そして、これでお金を稼ぐことを考えたほうがいいだろう、さもなければ、もう二度とコンピュータゲームを買うのはよそうと思いました。
 まずは、とにかくプログラミングしてみることが必要でした。コモドール64が出ると、すぐに飛びつきました。それで、このマシンに関することをすべて調べあげ、プログラムを始めたのです。2年間に何本かのソフトを開発し、それらは実際にリリースされました。

 私がこの仕事を始めたのは1986年ですが、最初の1年間はほとんどコモドールのマシンでしかプログラミングしませんでした。その後、娘が生まれたためにしばらく仕事を休んでいたところ、いまのパートナーのジェフ・ブラウンにMacintoshやAmigaといった新しいマシンでやってみないかと誘われたのです。
 新しいマシンのことを覚えるために1年半を費やしました。だから、SimCityが完成するまでには結局3年かかったことになりますね。

 私が人生の大切な決断をするときは、どうも直感によるところが大きいようですね。正しいと感じるほうを選んできた結果が、現在にあるのだろうと思います。

 私が好きなプログラマーはたくさんいます。ただ、私は彼らのプログラミングの能力に対してよりも、むしろアイデアを伝える方法を知っているという点で、彼らの考え方に尊敬をおぼえます。コードそのものは書いていなくても、彼らがプログラムをつくっているのです。大勢がすばらしい仕事を残しています。ビル・アトキンソンのHyperCardもそうですし、アラン・ケイのダイナブック。ほかの分野では人工知能の研究者であるマービン・ミンスキーとか、カール・セーガン。彼らはプログラマーというよりも科学者ですね。

 家族は、妻と3歳になるキャシディーという娘がひとりです。娘が生まれてから、人になにかを教えることを楽しく思うようになりました。子供ができると、全く異なった視野が開けますね。先々のことを考えるようになりますし、次の世代のことや自分達の世代の責任などについても、頭の中で思い描くようになりました。
最高記録は60万人都市?
 SimCityに関する話に戻りましょう。このゲームに隠しコマンドのようなものはないのか? とよく聞かれるんですが、それはプレイヤー白身が見つけ出すものだろうと思います。バージョンによっていろいろ隠されていますので、探してみてください。

 そういえば日本のSimCityのファンは、SimCityにゴジラが登場することをとても気にいってくれているようですね。わたしが初めてテレビでゴジラ映画を見たのは、たしか4歳だったような記憶があります。それ以来、ゴジラ映画を見るのがとても好きになりました。家には、いまでもゴジラ映画のピデオテイプがズラリと並んでいますし、ゴジラのおもちゃもたくさんあります。ゴジラは、なにかしら私が求めていたものなのかもしれません。

 SimCityの世界の中では、ゴジラを退治することは不可能です。街から遠ざけておくことしかできないのです。もしプレイヤーが、都市の汚染を食い止めているなら、ゴジラが現われることはありません。なぜなら彼は都市汚染の度合いが、あるレベルを越えなければやってこないようになっているからです。
 ゴジラが現われたら、もうお手上げです。彼は汚染が最もひどい地域に直行し、その地域を荒らし回ります。そして汚染の原因となっている工場を壊しつくして、帰っていくでしょう。つまり予防策としては、都市汚染を食い止めておけばよいのです。

 もうひとつの手段は、汚染地域を都市の中心部から離れたところに置くことです。そうすればゴジラは少なくとも汚染された地域の工場だけを壊し、ほかの地域に行くことはありません。これもひとつの戦略といえるでしょう。
 SimCityは、モンスター戦争のようなゲームではありません。だからゴジラと闘うことを楽しむような設定は、なんとしても避けたかったのです。ゴジラは、いわば都市汚染のインジケータのようなものです。
 また私は、正式にはこのモンスターのことをゴジラとは呼んでいません。コピーライトを侵すことを警戒していますから、「ゴジラ」はいつもただの「モンスター」です。しかしどういうわけか、だれもがゴジラと呼んでいますね。

 このゲームのひとつの目標はMegalopolisをつくり上げることですが、私自身そこまでまだいきついていません。私の知りあいには成功した人がいます。私たちの仕事を手伝ってくれた、スティーブというApple社のテスターをやっている男です。彼が作った都市は人口68万人で、私が知っている限りの最高です。なかなかそこまでいくのはむずかしいようですね。
 実際に彼が完成させた街を見たわけではありませんが、彼はよく整理された地図を作り、川は都市の中に配置しなかったようです。Megalopolisを目指してがんばっている人に参考になるでしょう。ほかの具体的なゲーム環境についても、いくつかお話ししましょう。

 たとえば原子力発電所がメルトダウンしたあとの、放射能で汚染された土地がありますね。あの土地は永久に使えなくなったのでは、と心配しているプレイヤーもいるようです。実際、人工的に修復することはできません。
 しかし放射能は自然に消えていくのです。 100年が半減期で、最初の100年で半分、次の100年で残りのまた半分といった具合に減少していきます。ですから最初の200年ぐらいは放射能の影響が残ってしまうわけです。ただ、いまのバージョンは、少しメルトダウンが多すぎると思っています。発生率が少し非現実的ですから、将来のバージョンではもっとメルトダウンの発生率を低くおさえるつもりです。

 また、住宅地域を再開発するために、家をつぶします。そのとき住んでいた人が死んでしまったり、そのせいで死亡率があがっていったりはしません。住んでいた人々は、ほかの地域に空いた住宅があればそこに移ります。もしどこにも空きがなければ波らは街を出ていくだけですっただ、街を出ていった人の分の人口は減少します。人口が減るという点だけみると、災害の場合と同じ現象ですね。しかし災害が原因でない限り、人が死ぬことはないのです。

 SimCityには現実の都市が数多く入っていますが、プレイヤーが自分で現実の都市をシミュレートしてオリジナルのマップを作製することも不可能ではありません。
 ただ、正確にシミュレートするとなると、それはとてもむずかしいことです。なぜならSimCityでシミュレートすべきデータはとても多いし、データ自体がなかなか得にくいと思われるからです。地形のデータはどこの都市であっても正確なものが手に人ります。しかし、施政への要望や要求などの状況は異なりますし、現実のマップに対してそれを適用できるかどうかは疑問です。

 ほとんどの都市では、SimCityにあるような不満の統計といったデータを、正確に把握していません。またたいていの統計は、区や市などの大きな地域の単位でとられるものですが、SimCityの扱っているのはほんの数ブロック単位からです。ですからSimCityにも、実際の統計とは矛盾する点が若干あるわけです。

うれしかった日本人の反響
 SimCityが発売されてすぐに、日本からはものすごい反響が返ってきました。アメリカのマーケットのほうがかなり大きいと思いますが、レジストレーションカードの返送率は日本のユーザーのほうが圧倒的に高いようです。またそのカードに書かれているコメントも、アメリカの標準的なユーザーよりも、より大きなフィードバックを与えてくれます。何人かの日本のユーザーは、彼らのつくった街をディスクに入れて送ってきました。アメリカ人ではだれひとりとして、そんなうれしいことはしてくれませんね。

 日本人は、このゲームをアメリカ人に比べて、より現実的シミュレーションとして考えているようです。アメリカ人はもっとゲーム的にとらえていますが、日本人のプレイの方法はより洗練されていると思います。
 おそらく日本のMacユーザーの数が、アメリカより少ないということに原因のひとつがあるのでしょうね。つまり日本でMacをもっているような人はテクノロジーそのものにとても関心があり、知識も豊富だということです。そういう人たちはソフトウェアにもお金を使いますし、マシンの前にいる時間も長いのだろうと思います。

遊びの本質は学習
 このゲームでプレイした人は、このゲームのいちばんのおもしろさが、自分自身の都市をつくれることにあると思うようです。さらに興味深いことに、それぞれが理想とする都市について一家言あるようなんてすね。
 たとえば、あなたが5人の人間を前に「さてみなさんの理想の都市をつくってみてください」と言ったとしましょう。できてきたものは、必ず5つの全く異なった都市になるはずです。

 ひとりがつくった都市は立派な都市交通システムをもったものになり、もうひとりの都市はとても住民の不満が少ない街、そしてもうひとりは川沿いの在宅街がある都市、といった具合です。

 また実際にプレイしているうちに、いろいろなことがわかってくると思うのです。というのは、ふだん私たちは住んでいる街に対して、自分の考えを直接的に実行することができません。そこで施政者に要求を出すわけですが、これは全体的な視点がどうしても欠けたものになりがちです。
 SimCityをやっていると、全体を考えるようになります。実際にMacの前に座って、葛藤しながらどうやって全体のバランスを取るかを考えなければなりません。ゲームが進行するにつれて、プレイヤーはシステムの全体を見通しながら、判断力を身につけられるはずです。

 よい例があります。ある日本人が、日本の新しい税金、消費税のことでコメントをよせてくれました。彼は「以前は消費税なんてばかげたことだと思っていたが、SimCityをやってその必要性がわかった。そしてなぜ政府のなかにこういった税金を実行しようとした人間がいるのか理解できた」と書いてきました。もしプレイヤーが新しい都市をつくっていて、どうしてもお金が足りないとしたら、その人は間違いなく税金を上げるでしょう。

 ゲームがこのような全体的な視野をもたらすことは、たいへんよいことだと思います。とくに日本は、アメリカよりずっと人口密度が高いゆえに、非常に都市化された文化をもっています。日本人は限られた土地の中に都市をつくり上げることを、実際的な感覚で親しめるのではないかと思いますね。

 遊びの本質というのは学習です。遊びを通じて学習することで、よりよく現実世界に対応していけるのです。学習にもいろいろな分野があるでしょう。SimCityは都市計画という一分野の勉強になるわけです。そして、たとえそれがゲームであっても、プレイすることで勉強を始めさえすれば、その分野について数多くのことを知ることになります。そして、いずれはそういったさまざまな経験から自然に覚えたことが、いかに身についているか、ひいては勉強そのものをエンジョイすることができるようになっていたか気づくはずです。

 私たちはいま、コンピュータとかファミコンといった教育目的に使える非常に強力なメディアをもっています。ほとんどの人、とりわけ子供たちが、エイリアンをやっつけることと同じような感覚で、楽しく学習ができるにちがいないのです。
 実は、いまお話したような分野のソフトをいくつか開発中です。しばらくすれば、とてもおもしろいものをお見せできると思います。楽しみにしていてください。

欄外の説明(※印)は原文にはありません

スタジオハード 編  「Macintosh版 SIMCITY都市づくりパーフェクトマニュアル」より 

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