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 議会がない理由
(02/05/18)
 SimCityは一般の議会など持ち合わせてはいない。プレーヤーである市長が思いのままに行動できるモノである。

 というのもSimCityはどちらかといえばプレイしやすさ、楽しさを前提にしているのでいわゆる「箱庭的」な形になっているからであろう。


 もっとも、それも楽しさとかなんとかを意図的に考えたと言うよりは、SimCityを作ったウィル・ライトがバンゲリング・ベイ(共に用語集参照)のマップツールでマップを作ることが楽しくて実際にこれ(マップツールで作ったマップ)を動かしてみようと思って、都市について勉強してSimCityを作ったという順番から言っても、SimCityがこういうスタイルになったのは必然かも知れない。

 そう、都市の様々な論理は踏襲(とうしゅう)されているものの、都市を建設するという行為は昔の王様のような感じでいるのもこのためとも言える。
 詳細に言えば、圧政を行っていた専制君主が追放されて、自分の箱庭をつくってやりたい放題をするというスタニスワフ・レムの「The Cyberiad(和名:宇宙創世記ロボットの旅)」の中の小話(トルルの完全犯罪−第七の旅−)からインスピレーションを受けたと言うことなので、そういう感じになっても当然といえば当然ですね。
  
どうでもいいおまけ「The Cyberiadを追え」
 実はこの本、世界各国で翻訳されているためか、タイトルが異なる物が存在する。和名は先程述べたものだが、ここに書かれている原著はCyberiadaというタイトルだ。「a」がついているかどうかというだけの違いなのだが、これはおそらくスタニスワフ・レム(スタニスラフ・レムと表記されることもある)がポーランドの人だからポーランド語なのだろう。各国版の表紙はこちらに(日本のもあるよ)。

 SimCityのガイドブックにもいくつかそのルーツが納められている。『任天堂公式ガイドブック』にはThe Cyberiadを読んで考えついたと書かれていますし(本人のコメントではないから編集が推測したのかも知れません)・・・・と本の表紙書いてあるし、『ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて』にはスタニスラフ・レムの短編を読んで・・・と本人も言っている。しかし、『Macintosh版 SIMCITY 都市作りパーフェクトマニュアル』の中で彼はこう発言していたのだ・・・

 「いまでも、大変気に入っている短編小説があります。きちんとした題名は忘れましたが、とても有名な小説で、たしか「七番目の・・・・・・」とかいうタイトルでした。」

 なぬ?有名な小説なのにタイトルがわからない?どうもしっくり行かないが、この「七番目の」というのはCyberiadaの最後の章、『トルルの完全犯罪−第七の旅−(直訳?)』のことだと伺えるのだが、これだけで普通覚えることがあるだろうか?ということでちょっと違う面から捜索してみると、「第七番目の旅」という名前で本に掲載されていた形跡が見つかったのです。
 この本の名前は1981年に出版された「The Mind's I Vol.2(和名:マインズ・アイ(下))」、サブタイトルが『コンピュータ時代の「心」と「私」』といういかにも人工知能などが好きなウィル・ライトが読みそうな本です。ここにその「第七番目の旅」ともう一つのレムの作品が載っているのである。それがそのCyberiadaに書かれたものと一致するかどうかは不明なのですが、違うということはあまり考えにくいのです(タイトルから言って)。

おそらく彼はこれを先に見たから、そう覚えていて、その後で知ったんだと思います(Macintosh版・・・の本がこの中で一番古い)。だって手元にあるならタイトルわかるでしょ。

推測な上どうでもいい話なんですが。


 という感じで、「都市計画シミュレーションソフトを作ろう」といきり立って作ったわけではないことが、一般的な手法と全く逆からのアプローチでこのようなスタイルにしたことで、煩雑(はんざつ)でややこしい都市デザイン(様々な意味での)に処する手続きを排除しているのでしょう。

 遊びの体験から生まれた遊びと学びの技術。
 これがSimCityのお面白さの秘密なのかも知れませんね。

 ・・・とすると、専門的な側からのニーズによるアプローチ(開発)では面白くなることはない、ということでしょうかね。

参考文献:「ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて」「任天堂公式ガイドブック シムシティー」「Macintosh版 SIMCITY 都市づくりパーフェクトマニュアル」「宇宙創世記ロボットの旅」
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