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 ソーラー発電所
(04/02/05)
 SimCityでは2000からソーラー発電所が登場する。

 しかし、これは多くの人が知っている「太陽光発電」ではない。SimCityのものは「太陽熱発電」なのだ。なぜそう断言できるのかというと、グラフィックを見れば分かるからなのだが、英語名でも”Solor Power Collector”(solar collector=太陽熱収集器)というように、「太陽熱」をもって発電する施設だとしっかり証明してくれている。

 「太陽熱発電・・・?朝日ソーラーみたいなやつ?」と思われる方も多いだろう。太陽熱を利用するという点に関して言えば間違ってはいないが、違う。ここでまず太陽光発電と太陽熱発電の違いを述べていこう。


【太陽光発電】

 太陽光発電は、太陽「光」というように、単結晶、多結晶、アモルファスなど素材によって値段や効率などの特徴が異なるものの、太陽の光を電気エネルギーに変換する「太陽電池」でもって発電するものである。
 これまで紹介してきた発電所がどれも「タービンを回して発電」という「機械的」な方式により発電しているのと違い、太陽光発電は、太陽光により(パネル内の2つの半導体内の作用があって)発電するという方式である。

 お馴染みの「ソーラー住宅」などが使うのもこの方式。太陽発電パネルは設置コストが高いが、晴天下に置いておくだけで発電が出来るという優れものである。安定性に欠けるため、日本のような雨の多い所ではメインの電源とは成り得ないが、一般家庭の電気をまかなうぐらいなら実用レベルで、夏など日照が多いときは電力会社に「売電」すらできることもある。
 実際に元は取れるケースはままだが、「環境に貢献している」とか「自分の家で発電している」という満足感で設置する人も少なくないようだ。


 長所に、発電時になにも排出しない&資源を消費しないということでクリーンであること、設置が比較的簡単であるということ、屋根などの既存物を利用できること、小規模なモノから大規模なモノまで用途に合わせて規模を変えることができること、扱うものが高エネルギーではないために保守も簡単だということ等が挙げられるだろう。どれもこれも既存の大型発電所とは大きく異なる特徴である。
 欠点として、コストがかかる、昼間しか使えない、角度や向きなど設置条件が厳しい、寿命が短い、大規模発電には向かない、などがあげられる。また、発電時の環境負荷はゼロだが、製造・廃棄時には当然環境負荷がある。もちろん、原発などと比べればそう凄いともいえないが、これは半導体の宿命でもある。

 発電費用が高いが、大量に生産することでコストを下げることが出来るという工業製品的な特徴を持つ発電施設である。



【太陽熱発電】

 太陽熱発電の方はというと、同じ太陽光でも、その「熱」を利用して、液体を蒸発させてタービンを回す、という仕組みをとっており、火力発電や原子力発電と似たような発電形式をとっているものである(後述のディッシュ型は別)。

 地上に降り注ぐ太陽の熱だけでタービンを回すほどの蒸発を発生させるというのが難しく思えてしまうが、太陽熱を集中的に集めることや、太陽の動きを追尾することや、液体を特殊な液体にすることなどでそれを可能にしている。


 太陽熱発電の方式は現在、以下の3種類がある。
  • トラフ型(分散型)
     放物曲面鏡(もしくは平面鏡+放物曲面鏡)で太陽光を集め、液体の入ったパイプを温める方式。場所を規模に応じて変えやすい&追加しやすい設計だが、集める光がタワー型に比べて少なくなるので、温度が低く、高効率化が望めないという欠点がある。
  • タワー型(集光型)
     地上に並べられた平面鏡(ヘリオスタット)で反射させた太陽光を中央のタワーに集めて、パイプを温める方式。場所を相当とる分、集められる太陽光も多くなり、必然的に高温にすることが可能。従って(ほかに比べれば)高効率の発電が可能。その分大規模でないと採算が取れない。
  • ディッシュ型
     パラボラアンテナのような形をした曲面鏡(ディッシュ)で反射させた太陽光を中央にあるレシーバーに集めて、スターリングエンジン(空気の温度差による圧力を利用した外燃機関)にて発電する方式。施設の規模を小さくすることが出来るが、まだ初期レベルの研究開発段階。
 ・・・といわれてもピンとこないと思い、簡略な図版を用意した。
  
トラフ型 タワー型 ディッシュ型
これを横や縦ににズラーッ
と並べると、大規模にできる
鏡の数を増やし、タワーを
高くすれば大規模にできる
形が決まっているので大規
模にできないが、コンパクト
  

SimCity 3000のもの
 タワー集光方式のものを見ていただいて気づいた方もおられると思うが、SimCityのものはこの太陽熱発電方式を採用している(右図)。そう、あの鏡のような板が中央のタワーに太陽光(すなわち熱)を集め、液体を熱し、蒸気を発生させ、タービンを回す仕組みだ。

 推測だが、SimCity 3000の物のモデルは、ニューメキシコ州アルバカーキのタワー集光型太陽熱発電の試験設備(出力5MW)だと思われる(2000のはオリジナルっぽい)。ホントに推測だけど、写真から。
 (サンディア国立研究所サイト内の写真1写真2写真3写真4


 太陽熱発電の技術は、太陽光発電と同様にコストが高くつき、技術的に成熟していない。しかし、太陽熱発電施設は、熱を別の形にして保存することができる「熱交換蓄熱器」「蓄熱」して、好きなときに「発電」が出来る施設を備えることによって、太陽光を直接電気に変換する太陽光発電では不可能な「夜」や「雨」での発電も可能である(太陽光は蓄電池がその役割を果たすが、まだ研究実験段階)。
 また、「天然ガス」を組み合わせることによって、安定供給が可能なハイブリッド式のプラントもある。

 この「一日中発電することが可能」という特徴が、昼夜の概念がないシムシティーに採用された理由かもしれない(実際は一日保存しておけるほど蓄熱器の性能は高くありませんが)。


 ただ、この太陽熱発電方式は、日本では香川県でのトラフ型とタワー型を使った実験により、高温の日照が必要など、経済的に損という理由から、あまり向かないと判断されあまり見向きされない。そう、立地に相当な制限がかかるからだ(SimCityでは「ここではないどこか」なので振り回されないが)。
 ただ、現在、沖縄の宮古島にパラボラディッシュ/スターリング型の実験プラントがあるそうだ。その理由は日照面もあるが、経済的なもの(原料を運ぶのがコスト高)、環境的なもの(観光資源)など様々な面がかかわっているのは言うまでもない(風力、太陽光の実用もされてるし)。
 発電所はただ置くだけではダメなのだ。とはいえ、そういいきれるまでの時代は来ていないのだが。



【シムシティーの太陽熱発電所】

 あまり長くなるといけないので、簡単にまとめておこう。
 アメリカには日照のよい地域や、砂漠地帯があるため、太陽熱発電施設が今も運転中である。しかし、まだ実用化(商業化)されているものは少なく、商業化されている物もトラフ型のみであるらしい。

 SimCityに登場する太陽熱発電所は、先ほども説明したようにタワー型である。
 アメリカのタワー型太陽熱発電施設の有名どころはカリフォルニア州バストウのソーラー1、モハベ砂漠のソーラー2があり、ともに10MWの出力を持つ。実験プラントなので、現在は停止しているが、このほかにも開発段階の物もいくつかある。しかし、現在、ソーラー2のとなりに、SEGS(Solar Electric Generating System)というトラフ型の太陽熱発電施設があり、これが大規模なトラフ型の太陽熱発電として注目を集めている。


 発電規模としてはとしては、SimCity の物で計算すると...
  • SimCity 2000(1990年から建設可能、50MWh/日=1,500MWh/月
  • SimCity 3000、SimCity 4(1985年から建設可能、5,000MWh/月
 このように数値が全然違う。
 そこで、現実のタワー型太陽熱発電所と、将来の性能予測データを引っ張り出してみる。DOE(連邦エネルギー省)とEPRI(電力研究所)の1997年の報告によると、タワー型の太陽熱発電は以下のようになると推測された。
 
タワー型太陽熱発電の性能予測
  1997年 2000年 2010年 2010年 2020年
発電タイプ ソーラー2 小型 Hybrid 大型 Hybrid 太陽熱のみ 太陽熱のみ
プラント出力(MW) 10 30 100 200 200
蓄熱時間(hour) 3 7 6 13 13
設備利用率(%) 20 43 44 65 77
年間発電量(GWh) 17.5 113.0 385.4 1,138.8 1,349.0
月間発電量(MWh) 1,458 9,416 32,116 94,900 112,417
※1997年の報告なので、2000年以降は予想値
※ソーラー2は名称。Hybridはガス発電とのハイブリッド式発電のもの。
DOE and EPRI, Renewable Energy Technology Characterizations, 1997より作成


SimCity 2000のもの。
モデル見あたらず
 この表を見ていただいて分かるように、ソーラー2の月間発電量は約1500MWh。そう、SimCity 2000のもの(右図)とほぼ同じだ。おそらく、SimCity 2000のソーラー発電所は、ソーラー2の数字を参考にしたものだと考えられる。
 もっと深く考えて、SimCity 2000の発売が1994年で、ソーラー2自体は1996年開始ということだから、ソーラー1のものなのかもしれないが、データがないのでなんともわからない。だが、ソーラー1の実測か、ソーラー2の予測値かのどちらかを参考にしたのは間違いないだろう。

 整理すれば、SimCity 2000のものは、出力10MW、設備利用率20%で最大稼働しているということだ。
 計算式にすると、
 10(MW)×{24(h)×20(%)}×30(day)=1440MWh/月 となる。

 ここから、SimCityの発電所は設備利用率を考慮したものである、という答えが導き出される。逆に言えば、その中でもさらにフル出力で運転することができないこともある、という設定だ。


 では、SimCity 3000、SimCity 4のものはどうだろう?
 SimCity 2000の5年後に作られただけあって、現代的な流れ(先の表参照)を反映して性能が向上した数値になったのだと思われるが、SimCity 2000のもののようにピタリと当てはまる物は見あたらない。

 2000年の予測値もあてはまらない。それどころか、その半分だ。純粋な太陽熱発電だから、ハイブリッド分(天然ガス分)を抜いた数値なのか、それとも、稼働率をソーラー2並にしたものなのか、までは調べがつかなかった。SimCity 3000でのモデルと推測されるアルバカーキの実験機に至っては5MWのもの(しかも78年のもの)なので、参考にもならないだろう。
 あくまでも憶測だが、1985年から建てられる、ということである程度数値を落としたのかもしれない。


 建設可能年についてだが、先ほど挙げた実験プラントソーラー1の運転時期が1982〜88年(ソーラー2は1996年〜)となっており、おそらくソーラー1の数字に合わせたのだと推測される。
 ひょっとしたら、アメリカのじゃないかも、とか思ったりもするが、この発電量を出せるようなものはなかなかないし、そういう意味では無理に(アメリカにとって)外国の物を参考にはしないだろう。知らないだけかもしれないが、SimCityのシリーズによって年号がバラバラになるぐらいだから、そう複雑に決めているものではないと思われる。


 また、価格に関しては、ソーラーフィールド(ようは鏡)の面積・枚数などによって変わるのでなんとも言い難い。逆にいえば、太陽熱発電は、規模が様々な物が作れる、という点では一致しているものと言えるだろう。



 太陽光でも太陽熱でも、太陽の膨大なエネルギーを利用することにかわりはない。しかし、地球の内部には、太陽のエネルギーを生物が生存していくレベルにやわらげる大気の仕組みがあるので、そのエネルギーをフルに利用することは出来ない。それが、「本当は高エネルギーのハズの太陽」なのに発電力が弱いというソーラー発電の欠点にもなってしまうわけだ。

 しかし、比類する物がないくらいの太陽のエネルギーを有効活用したい・・・ということで考えられているのが、地球外に太陽光発電パネルをおいてそこで発電した電力をマイクロ波に変換して地球に送信するという発電施設。SimCityでいう「マイクロ波発電所」だ(マイクロ波発電については次にやるのでお待ちいただきたい)。


 太陽光・太陽熱に限らず、太陽エネルギーを利用した発電施設は、赤道直下のような「日照時間」の長いところ、そして晴天が続くところが最も適していると言われている。それはどこかというと・・・・砂漠だ。事実、砂漠で太陽発電の研究を行うことも多い(先に挙げたソーラー2や、商業運転している太陽熱プラントSEGSも砂漠だ)。

 もちろん、砂漠なら砂漠なりの問題もある。砂嵐だのなんだのと厳しい自然が待ち受けているわけである。だてに人があまり住まない地域ではない。砂が太陽光パネルを傷つけて寿命を短くしたり、巻上がった砂が反射鏡にあたる光の量を減らすこともある。草原にしても同じ。自然現象に対応した利用方法が求められるのだ。
 それに、人の住まないところに広大な土地があるとしても、そこからの送電ロスもバカにならない。また、途上国であるが故に、高度な技術を持つ技術者が少ない、などの理由もある。赤道直下の国々は途上国が多いのだ。そういったことも含めて支援が行われていたりもする。
 ただ、「うまくいけば」石油に変わるエネルギー資源国になるかも・・・・・わからないけどね。


 しかし、SimCityではそこまで気にする必要はない。こだわるとゲームが面白くなるからに決まっているが、自然エネルギーを使うということは、単に「置くだけ」では意味がないということを忘れないようにしなければならないだろう。


 自然エネルギーの利用は、自然を知ることであると同時に、地域の事情・特性を知ることが必要である。これはほかの発電所よりも要求される。クリアすべき問題は技術ばかりじゃないのだ。
 

参考文献:「図説 電力システム工学」「発電変電 改訂版」「自然エネルギー利用学 改訂版」「アメリカの電力自由化」「エネルギー工学概論」「とことんわかる エネルギーのしくみ」

参考Webサイト:
 シャープ
 でんきの科学館
 Stirling Engine Home Page
 桐蔭横浜大学医用工学科 早川吉則研究室
 NEDO
 原子力図書館 げんしろう原子力百科事典ATOMICA
 US Department of Energy:Energy Information Administration
 US Department of Energy:Concentrating Solar Power and SunLab
 Sandia National Laboratories
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