[#039]
 風力発電所
(04/01/17)

沖縄県宮古島 狩俣地区(西平安名崎)
 風の力をエネルギーとして利用する歴史は古い。それは、風が人間の力以上の力をもちながらも、人の周りにあふれているからである。風車だけではなく、帆船などは風の最たる利用例だ。

 風車、と言うことに限ってみても、その歴史はかなり古く、古代文明の時代から使っていたといわれている。現在では、主に農場用風車、そして風力発電に使われているのはご存じの通りだ。

 実際、日本でも風力発電施設を目にすることがどんどん増えてきているし、写真のような大型の風力発電以外にも、戸建て住宅やオフィス街に「小型風力発電」が登場してきている。必ずしも「完全に環境に優しい」とは言えないが、これまでの大型発電所とは一線を画しているため注目されている。


 風力発電施設の発電構造自体は至ってシンプルで、風車の羽根が風を受けて回転することによって発電機を回し、発電するという仕組みだ。もちろん、機械的には色々な仕組みが組み込まれているのだが、どの風力発電施設も純粋に「風の力」だけで発電するというのは変わらない(詳しい仕組みを知りたい方は参考リンクを参照のこと)。


 また、一口に風車といっても色々な種類があり、設置場所や用途によって使い分けるのが普通である。特徴などをまとめるとこのようになる。 
 
横軸がどれぐらいの風の速さで動くかというもので、
縦軸はどれぐらいの力発生させられるか、というものである。
「図説 電力システム工学」各種風車の特性より

アメリカ農場型風車は揚水用多翼風車と言われ、井戸水を汲み上げる為の風車である。その為、翼を多くすることによって回転数よりも「力」を稼ぎ、水を汲み上げるのに適している。SimCityでも農場に水を供給する役目を果たしているといわれる。
 この中で、風力発電に使われるのはお馴染みの「3枚ブレード」「プロペラ風車」(SimCityもこれ)が多いが、「2枚ブレードのプロペラ風車」「ダリウス型風車」「サボニウス型風車」も使われることもある。プロペラ風車、「オランダ風車」「アメリカ農場風車」(右コラム参照)のようなものを回転軸が風の向きと平行なので「水平軸風車」といい、ダリウス風車、サボニウス風車のようなものを「垂直軸風車」という。

 水平軸風車はグラフから見て取れるように高速回転が期待でき、大型化も容易だが、騒音の問題や、風車自体が風の向きに合わせる必要がある(オランダ風車は人力で合わせるらしい)。垂直軸風車は、静かで、どの向きからの風でも反応できるなどの特徴があるが、効率の面でプロペラ型に劣る。
 プロペラ型風車の中でも、3枚ブレードのほうが広い範囲の風速に耐えられるという理由や、3枚ブレードの方が2枚ブレードより巨大感を感じない(2枚だと目に見えるのが直径そのものになるから)という理由から、使われているケースが多いようである。風力発電に限ったことではないが、それぞれの特長を生かした利用の工夫がなされている。


 実際の風力発電も、大きなところでいえば緯度から、気候、季節、天気、地形(風の流れ、海との関係、山の形、森の大きさ、建築物)などに影響される。そういった諸々の人にはどうしようも出来ない要因があるだけに、風力発電所を実際に建設する場合には、事前にどれだけの風量を確保できるかを調査してから建設するのが常である。代表的な風として海と陸の気温の日変化で生じる海風・陸風、太陽光どの変化に伴う季節風である極東風(極地方)、偏西風(中緯度地方)、貿易風(低緯度地方)などがある。



 ではSimCityの風力発電施設(風車)を見てみよう。
 風力発電所は、電気などを管理する棟があるものがあるが、ここではそれは考えないでおこう。グラフィックを見る限り、操作ボックスはあるみたいだから(汗)。


【発電量】

風力発電の変遷
SimCity 2000

最大発電出力:
         4MWh/日
建設費:$100
建設可能年:1980年
SimCity 3000

最大発電出力:
 200MWh/月(6.7MWh/日)
建設費:§200
建設可能年:1980年
SimCity 4

最大発電出力:
 200MWh/月(6.7MWh/日)
建設費:§200(月§50も)
建設可能年:ゲーム開始時
 風車の発電量は、概ねブレードの直径に比例する。そのため、SimCity 2000の風車(4MW/日)からSimCity 3000の風車(200MW/月=6.7MW/日)のものになって羽根の大きさがパッと見でも変わったようなので、その関係からか発電量が増えている、と強引に結論付けることも出来ますが、常識から考えて、時代を追うごとに発電力が上がるのは不思議なことではないでしょう。事実、大型風力発電施設は巨大化が進んでいる。

 3000を例にとって考えると、一日の発電量が6.7MW(以降MWhと表記)だとして、それを24時間で割ると風力発電の定格出力が279KWと出ます(6.7MWh÷24h=0.279MW)。
 現実の風力発電施設の定格出力は、色々ありますが、現在は2MW(2000KW)以上のものもある。そのことを考えれば、この数字ははるかに小さい値と言える。

 先ほどの写真に出ていた風力発電(右三つ)はローター直径31m、定格出力400kWであり、これより小さい規模だとすることも可能であるが、それだと大きな問題がある。それは、風力発電は自然エネルギーである風を受けて動くために、火力発電などと異なりフル稼働できないからである。実際の設備利用率※2は大体20%代と言われ、良くて30%代、相当条件がよくないと50%は出ない。

 SimCity内では場所によって発電量が変わるのは地形の影響で風量が変わる(風というのは山のふもとでは弱くなるのだが、上に行けば行くほど加速作用が働いて元の風より強くなる)というものをシミュレートしているのだが、フル出力できる場所・時はほとんどない(Loacl Cityで詳しく検証されているのでそちらを参照されたい)。
 どうもSimCityでは山の構造よりも、隣接するタイルの角度によって風力が変わると言う仕組みになっており、現実とはやや違うデフォルメなシミュレーションであるとわかる。
 
  この状態なら最大発電が可能

 それを踏まえて考えてみても、この発電量はおかしく感じる。
 というのも、SimCity3000内で風力発電の設備利用率は、私の知る限りどんなに低くても40%(80MWh/月)以上である。しかし、現実の風力発電は40%以上設備利用率を持つのはほとんどない。となると元々、SimCityの風力発電の発電出力量が「定格出力」の数値だけではじき出されているのではないのかも、と思えてくる。そう考えれば、279KWという、現在の風力発電で言えば決して大きくないのもうなずける。

 そこで、[#037]のときと同じように連邦エネルギー省のサイトを見ると、1979年に2MW風力発電(実験機MOD-1)が稼働している(おそらくこれが建設可能年を1980年にしているのだろう)。これがSimCityの風車の出力に対応しているなら、279KWしか出力がないとする先ほどまでの計算は完全に否定される。とはいえ、1979年に実際に稼働したMOD-1は低周波公害を起こしたというもので、とても現実利用のできるものではなく、2MWの出力があったと言っても2枚ブレードで、SimCityに出てくるものとはデザインもちがう(写真はこちらを参考)。安易にこれを基準にするのもおかしいかもしれない。

 もうちょっとシンプルに、例えば出力を1MWの物にしたらどうかと仮定してみる。そうすると、一日の最大発電量は1MW×24h=24MWhとなる。SimCity 3000のゲーム内で一日の最大発電量は6.7MWhとなっているのだから、計算するとゲーム内では6.7÷24×100(%)=27.9%となり、これを設備利用率の「最大」として、月に100MWhしか発電しないときの設備利用率はその半分の13.95%としているのだと計算結果が出る。その半分の500KWなら、最大(200MWh/月)で55.8%、100MWh/月で27.9%となって、最小の数値の割に現実より高い数値が出る。750KWなら最大37.2%、最小18.6%と出るので、シムシティー3000やシムシティー4に出る風力発電の発電出力は750KW〜1MWぐらいがやはり適当なのではないかと、することができる。
 これ以上時間を割けないので、この辺でまとめておこう(許して下さい)。



【建設費】

 費用自体は単純に見ると、高くなってように見えるが、単位が同じではないので比較はできない。参考までに、石油発電は$6,600→§8,500となっている(1.29倍)。価格は§130あたりが妥当かと思うが、性能が2000→3000で1.68倍になっていることを考えると、130×1.68=218.4で§200でもおかしな数字ではないだろう。
 SimCity4での建設費に至っては、石油が§17,000、風力が§500となっている(発電量は変わっていない)。また、月間の維持費も§600と§50かかる仕組みになっている。

 では、現実の建設費はどれぐらいだろうか?風力発電はまったく同じものだろうが、「高さ」や「強度」、「輸送費」、「工事費(地質の関係あり)」、「人件費」など様々な要因が影響するので価格にばらつきが生じますが、小さくても1基1億円以上は軽く超し、1MWのものなら2〜3億円はするようです。SimCityの相場がわかりませんが、1億円はドルにすると105万ドルとなるので、ひょっとしたらSimCityの§1(1シムオリオン)は「1万ドル」なのかもしれません(風力=§200=200万ドル)。
 アメリカの場合風力発電の費用は最近の動向だと1KW当たり1,200ドル超ぐらいだそうで、1MWだと120万ドル以上はするという計算になります。「§1=1万ドル」仮説も案外バカにできないかもしれません。。ただSimCity4は値上がりしてるから・・・・。

 また、参考までに、アメリカでは風力発電の量産化・企画化が進んでおり、また風量が(大陸性の風を利用するので)日本にくらべて相対的に安定して得られるため、1Wh当たりの風力発電のコストは日本の場合と比較して1/3〜1/4程度であるとのこと。


 また、寿命も延びてはいるが、SimCity 3000の120年というのは・・・・・将来的にはそうなるかもしれないが、今のところは進歩する段階なので20年、40年などが目安になっているようだ。



【風力発電の問題】

 なお、風力発電には主に以下のような問題がある
  1. 風に依存するので安定的な供給ができない(ベース電源とは成り得ない)
  2. 風を切るので騒音が生じる(大型のプロペラ型ほどこれが大きい)
  3. 鳥が羽根にぶつかって死んでしまったり、風の流れを変える恐れがある
  4. 好みによるが、人工物である為、景観上の問題がある(大きな影もできる)
  5. 落雷や強風により、ブレードや機器が破損したり、本体が倒れてしまう
 3や5はSimCityではあり得ないことだが、1、2、4はシミュレートされている。
 1に関しては、プレイ中に見ていればわかるように発電量が変化するときがあることからもわかるだろう。もちろん、周囲の建物がどう変化したりとかによる風の流れの変化を受けないようではあるが、簡単に「風力は不安定」だということはシミュレートできている(追記:気候の概念がある2000ではそれが顕著に出る)。2や4の点に関して言うならば、NIMBY([#018]参照)という形でシミュレートされているとすることが可能だ。風力発電のNIMBYは電線と同じようなレベルで、ほかの発電所に比べればNIMBY効果は低いものの、NIMBY効果があると言うことは、かならずしも歓迎されない要素を持つ施設だということだ。(追記)もちろん、そもそも住宅街の近くに設置しないものだから問題がなさそうだが、いざ設置してみると「迷惑に感じる」というわけだ(SimCityなら出来てしまうし、実際にそれで反対して建設中止になった所もある)。また、2、3、4の問題があるために、国立公園内に設置するべきか否かでもめているようだ。
発電所のNIMBY効果
建物の名前 住宅 商業 工業 その他
電線 -15 -15 N/A N/A
石炭発電所 -90 -70 -15 -15
石油発電所 -70 -55 -15 -15
ガス発電所 -60 -40 -9 -14
原子力発電所 -110 -80 -30 -12
風力発電所(風車) -15 -14 -4 -9
ソーラー発電所 -35 -14 -4 -9


 このような風力発電の特徴を踏まえると、SimCityでやったように、様々な電源と組み合わせることが風力発電の正しい使い方と言えるだろう。

 とはいえ、現在は風力発電を「町おこし」のきっかけとしている自治体もちらほらあるし、以下に述べるようにウィンドファームなどの大規模な風力発電の利用方法もある。風の強い洋上風力発電などの研究開発も行われている。家庭で太陽光発電と小型風力発電をつける家庭もある。

 新しい発電技術にかける期待は大きい。これからどんな発達をするかわからない。その分問題も生じるが、それも同時にクリアしていくことが求められる時代なので、火力などのように爆発的に広がることはないが、少しずつ我々の生活に近くなっているのは紛れもない事実だ。
 
ウィンドファームと離島
  風力発電は風の強い北ヨーロッパだけでなく、アメリカも風力エネルギー先進国の一つである(総発電量はドイツに次ぎ二位。ただし、すべての電源に対しての割合はデンマークの方が高い)。オイルショック以降、本格的な風力発電開発に取り組み、いくつかの試作(1枚プロペラというのもあったらしい)を繰り返しながら実用風車を送り出した。

 アメリカで風力発電と言えば、有名なのがカリフォルニア州にあるウィンドファームで、アルタモント・パス、テハチャピ・パスなどのウィンドファームでは、あわせて15000以上もの風車が稼働している(テキサス州も伸びてきている)。
 風力発電の多くがカリフォルニア州に建てられているのは、州政府の取り組みもあるが、地形的によるところも大きい。日中の太陽によって加熱された砂漠が上昇気流を生じさせ、海からの冷たい風がそこに吹き込む(風は暖かい方に流れ込む)、という風の流れを利用したものだ。

 このケースのように、風力発電所は地形・気候上の影響に左右される。参考までに、日本のウィンドファームは風の強い日本海側沿岸部、東北三陸海岸側などにある。
 なお、カリフォルニアでは一番電力消費が激しい5月〜10月に一番良い風が吹くなどの気候的特性があるが、SimCityには季節の概念がないので、それによる変化という要素はない。風が強すぎる場所に風力を置くと壊れてしまったりとなかなか一筋縄ではいきませんが、沖縄のような離島が集まるところでは、大型の発電所は必要でないし、作る場所(原料を貯めておける場所)や就労者の確保などの問題、環境不可の問題がクリアできないので、貴重な電源手段としての実験・研究が進められている。
 沖縄の風力発電の数は関西のそれに等しい。また、関東と中部を合わせた数にも等しいことからもそれがわかっていただけるだろうか?(ちなみに一番多いのは東北地方、その次が北海道だ)


(追記)
 本文でも紹介した風力発電を通じた町おこしの例は色々ある。市町村が独自に風力発電施設を建設する所、共同で第三セクターを立ち上げてウィンドファームを作る所、地元企業が精力的に行う所、電力会社が建設し電源とする所など、事業形態からなにまでそれは様々で、それぞれが組み合わさった所もある(もちろん国の補助が必要だったりするけど)。
 そういった町おこしをする街にには、「自然」がその街の顔であること、自然環境(特に風)が厳しい街であること、産業的に資源が乏しい街であることなどといった今まではネガティブな要素だったものを持つ所が多い。「自然しかない街」から「環境に優しい街」に変えようとしている街も少なくない。
 これは逆に言えば、マスタープランなどに代表される「地方の自治化・分権化」が進み、地方の独自色を活かした施策が出来るようになったことの証でもある。

 風車を作っただけで町おこしになるのか?

 と思われる方もおられるかもしれない。たしかに、風車を建設したり運営したりする雇用だけで町おこしなど出来ないが、これはあくまで「きっかけ」なのだ。町おこしというのは、ある「きっかけ」を通じて、行政と企業と市民が真剣に街のことを考え、行動を起こすことで生まれることなのである。逆に言えば、風力発電を街の顔とするならば、「風力せんべい」のようなみやげや観光・ランドマークだけではなく、風力発電を研究する機会(サミット、協議会etc.)、環境教育、環境意識のある人の移住、大学の誘致などといったことにも力を入れる必要があるだろう。
 また、電力も自前で作れるということになると、経済の形も変わってくるだろう。参考までに、三重県久居市では世帯の約14%、山形県立川町では約56%、北海道苫前町では約79%をウィンドファームの電力でまかなっている(売電するウィンドファームもあるので比べられないが)。
 町おこしとしての風力発電は、その街の未来への指針でもあるのだ。

 太陽光より風力発電を町おこしに使う理由は、コスト的なものもあるが、ランドマークとして意味があるとか、場所をとらない(自然破壊は極力抑えたい)からというのが大きいだろう。場所をとる太陽光発電の可能性はやはり「空いている屋根」なのだ([#038]のSMUDのコラム参照)。

 もちろん、それらは先に挙げた風力発電の欠点をさんざ議論してきた所であるわけで、その負の要素も考えて議会で討論したり、市民に意見を聞いたりする自治体もあり、今後もまだまだ増えそうである。原発誘致よりも積極的なのは時代の流れか(六ヶ所村でもウィンドファームができたりね)。


※SimCityの英語版はMW-hで表記されているので日本語版のミスだと思われる。[#036]ではSimCity側の表記ミスかと思われたが、こと風力発電をみてみると、MW-hじゃないと数値がおかしくなる。SimCity4では日本語版でもきっちりとMW-hと書いてある。
※2:設備利用率(%)=実際の発電量÷(定格出力×その期間の時間数)×100。すなわち実際に発電された量が定格出力(最大出力)でフル発電した場合の発電量のどれぐらいの割合か、という数値。風力発電で言えば、NEDOによる採算ベース基準は17%と言われている。原発などは80%以上が普通で、だからベース電源として成り立つ。これが自然エネルギー発電の短所でもあると叩く人もいるが、一概に比べてはいけない問題。

参考文献:「脱原子力社会の選択」「図説 電力システム工学」「風力発電技術(改訂版)」「発電変電 改訂版」「風力発電入門」「風・風車のQ&A」

参考Webサイト:
 沖縄電力
 福井商工会議所
 NEDO情報センター
 Wind Rose
 風力発電の研究
 山形大学環境保全センター
 光と風の研究所
 US Department of Energy Energy Information Administration(連邦エネルギー省 エネルギー情報局)
 風なび(公立はこだて未来大学「風の道を探す」プロジェクト公式ホームページ)
 Illustrated History of Wind Power Development
 Loacl City
 立川町
 久居市
 苫前町
 わがマチ・わがムラ−市町村の姿−
[戻る]