[#028]
 財政システム−収入(2)
(02/12/9)
 今回は[#027]に続いた形で、税収入について分析を行います。

 [#027]でSimCity3000の住宅税・商業税・工業税は
  • 住宅税・・・個人所得税、固定資産税
  • 商業税・・・法人所得税、固定資産税、消費税
  • 工業税・・・法人所得税、固定資産税
 となっていると紹介したのですが、実際こんなシンプルじゃないという点は言い出したらキリがないのでここではおいておき、どうやってこれらの税収を獲得しているかに焦点を集めることにします。

 これまでのSimCityシリーズでは「商業税を消費税(SimCity Classic)」、「財産税のみ(SimCity 2000)右図」などと雑然として困ってしまうのだが、一応ここではSimCity 3000「公式」戦略ガイドによることにする。それにしても不思議なのは、どのシリーズも一貫してデフォルトの税率が「7%」になっている。このことも合わせて税金についての調査を行いたいと思う。


 まず、税の種類から考えましょう。

【固定資産税について】

 アメリカでは税収の中で、連邦は個人所得税、州は個人所得税と一般売上税、地方政府は固定資産税(財産税とすることもある※1)に大きく頼っており、下記グラフを見てわかるように地方政府の税収の3/4ほどを占める事を考えれば、SimCityで固定資産税が選択されているのは間違いではないでしょう。また、プログラムの構造上、地価・密度などから固定資産税を算出するのは比較的簡単であると言える。SimCity 2000で財産税だけだったというワケはこれでも証明できるだろう。
州・地方政府の税収構成
[#027]の表より

 固定資産税は地方政府の主要な収入源であるため税率の設定などは地方政府などによってさまざまである(固定資産税は連邦政府による課税権はない)。課税の計算は簡単に説明すると

課税額=固定資産評価額×評価基準×名目税率     
         ↑地方政府による ↑州政府による ↑地方政府による

で課税額を決定しているとのこと。固定資産評価額は地方政府によって異なるため公平性・統一性に欠けることがあるために、州が州内の固定資産を元に調整率(評価基準)を設定し、それに地方政府の設定した(必要とされる税収分で割る名目税率をかけた物が実際に適用される税率(実行税率)となる(表を参照)。
アメリカの都市固定資産税率の例(%)
代表的な都市 名目税率 評価基準 実効税率
マサチューセッツ州 ボストン 1.32 100 1.32
ニューヨーク州 ニューヨーク 10.88 7.3 0.80
ルイジアナ州 ニューオリンズ 17.00 10 1.70
テキサス州 ヒューストン 2.59 100 2.59
カリフォルニア州 ロサンゼルス 1.07 100 1.07
オレゴン州 ポートランド 2.40 100 2.40
アラスカ州 アンカレジ 1.77 94.5 1.67
各州で代表的な51都市平均 6.78 56.3 1.67
Washington D.C. Office of the Chief Financial Officer
Tax Rates and Tax Burdens in the District of Columbia
A Nationwide Comparison, 2000
より作成
※州都ではなく、州の中で最大人口規模の都市。ワシントンD.Cも含む。

 実際、名目税率がSimCityの税率に関係あるかどうかはわからないが、自治体側の設定が出来る物が名目税率に相当すると考えられるため、色を変えてみた。そうすると、なんと6.78%とデフォルトである7%に近い数字となったが、たまたまこうなったという可能性は拭いきれない。ただし、税率の設定幅がかなり広い(SimCityの税率幅は0〜22%)ことを考えると、あながち関係ないとも言い切れなさそうだ。


【所得税について】

 では所得税はどうか?普通、個人所得税(日本では所得税)と法人所得税(日本では法人税)と分かれているのですが、商業・工業と別れてはいません。単に収入結果として出るだけなら問題ないのですが、税率を変更できる、というところが少し問題と言えるでしょう。
 アメリカの(州の)所得税は州によって税率が変わり、大体、個人所得税が(収入によりますが)1〜10%、法人所得税は3〜9%が一般的のようです。州によっては一律の税率であったり、さまざまな条件があったりしたりする事もある上に、アラスカ州のように個人所得税が0%の所があったり、テキサス州のように、個人所得税も法人所得税も0%にしてビジネスを誘致(まさにSimCityです)しようとしている州があったりします。
 所得税の課税権は連邦政府、州政府、特定の市政府(※2)に限られていますが、それらも各政府の事情によってコントロールされています。

 以下の表は連邦税(個人所得税なら10.0〜38.6%+Xなど)を抜いているので実行税率ではありませんが、市政府が設定する個人所得税率(色の塗ってある)がSimCityの税に関わっているものだと推測することが出来ます。
アメリカ所得税率の例(%) 市の個人所得税率の例(%)
法人所得税 個人所得税 代表的な都市 個人所得税 合計
マサチューセッツ州 9.5% 5.6% ボストン 2.0〜5.0 8.2〜9.9
ニューヨーク州 7.5% 4.0〜6.85% ニューヨーク 1.3〜8.9 8.1〜13.8
ルイジアナ州 4.0〜8.0% 2.0〜6.0% ニューオリンズ 1.5〜2.9 5.7〜7.8
テキサス州 なし なし ヒューストン 3.3〜6.2 6.8〜4.9
カリフォルニア州 8.84% 1.0〜9.3% ロサンゼルス 0.0〜5.1 9.2〜12.2
オレゴン州 6.6% 5.0〜9.0% ポートランド 3.6〜6.5 7.1〜9.1
アラスカ州 1.0〜9.4% なし アンカレジ なし 3.7〜2.9
各州で代表的な51都市平均個人所得税 1.6〜4.8 8.0〜9.1
Washington D.C. Office of the Chief Financial Officer
Tax Rates and Tax Burdens in the District of Columbia A Nationwide Comparison, 2000より作成
TAX FOUNDATION [STATE FINANCE]より作成
※なぜかわからないがこの数字になっている。アンカレジなど正しいのだろうかちょっと不明です。
 市による法人所得税の課税率は見つけられませんでした。


【消費税について】

 消費税についてですが、これがちょっとネックです。というのも、日本のいわゆるすべての財・サービスに掛かる一律5%の「消費税(一般消費税)」に相当する物は、アメリカでは「一般売上税(general sales tax)」となるにも関わらず、アメリカのたばこ税やガソリン税などの個別間接税を「消費税(excise tax)」ということがあるからです(大まかな分類上で行けば、これらはすべて「消費課税」になる)。それなのに公式戦略ガイドでは「消費税」と書かれているので、まずそれがどの「消費税」なのかという分析から始めます。

 そもそも、日本では消費税(consumption tax)は5%のうち4%が国財政に、1%が地方財政に回る仕組みになっていますが、アメリカの連邦レベルで言われる消費税(excise tax)はたばこ税やアルコール税などに掛かる税を指しており、連邦の財産になります(これらはさらに州による課税もある)。日本ではこれに相当する物は消費課税の中の「個別間接税」とされています。もちろん、その課税対象や方法が異なるので比べることは出来ないのですが、消費税といわれる物が違うというのが問題だと言いたいわけです。


ニューヨーク市でのレシート
8.25%の課税が書かれている
 もともと、この情報元である「シムシティ3000公式戦略ガイド」はアメリカの「SimCity 3000 Strategy Guide」の翻訳版なのでそういったことが起こりうるのです。版元に問い合わせて問題を解決する方法もありますが、そもそも、たばこ税などの連邦・州レベルの「消費税」だとSimCity的世界観から言って税率調整できる物ではないと思われるので、州・自治体レベルで課税する「一般売上税(小売売上税)」のことを示していると考えるのが普通と思われます。というのも、さらに詳しく述べるならば、日本で「消費税」に該当する「一般売上税」は(レシートに書かれるやつね。右図)、州それぞれが独自に税率を設定し、州がその税収を得る様になっていて、さらに市や郡などでさらに追加を行うということが出来る仕組みになっています(その場合の追加分が市の税収となる)。もちろん、州の法律で最大税率などは決められていることもあります。

 おわかりですね、SimCityの商業税の中にある消費税というのは、州が課した売上税(ニューヨーク州は4%)ではなく、市などが課した売上税(ニューヨーク市では4.5%)であるということです(表を参照)。ちなみにオレゴン州のように売上税自体が存在しない州もありますが、一般的には州による売上税(3〜6%程度)+市、郡、学校区などによる追加分の売上税が課されるのが一般的です。また、課税対象についても、日本のようにすべての物に対して売上税がかかるわけではないこともあります。
アメリカ一般売上税の例(%)
州売上税 都市 郡・市売上税 売上税計
マサチューセッツ州 5.0 ボストン なし 5.0
ニューヨーク州 4.0 ニューヨーク 4.25 8.25
ロングアイランド 2.75 6.75
ルイジアナ州 4.0 ニューオリンズ 5.0 9.0
テキサス州 6.25 ヒューストン 2.0 8.25
カリフォルニア州 6.0 ロサンゼルス 2.25 8.25
サンフランシスコ 2.5 8.5
サンディエゴ 1.5 7.5
オレゴン州 なし ポートランド なし なし
アラスカ州 なし アンカレジ なし なし
各州で代表的な51都市平均の一般売上税課税率 5.16 6.44
Washington D.C. Office of the Chief Financial Officer
Tax Rates and Tax Burdens in the District of Columbia
A Nationwide Comparison, 2000
より作成
 ただし、この消費税(一般売上税)だと、SimCity内でどうやって収入を得ているのかわからない。というのも、消費税は物品やサービスに対してかかる税金なので、建物が大きくなったからといって増えるとは限らないからだ(もちろん、大きい方が多いのはただしいだろうが)。



 次の問題、税率の概念を考察してます。
 商業税などのようにシミュレートされている種類というのが多数あるので、そういったことを考慮すると考えられるのは
  • 税率の中で各種の税の割合が決まっている
  • すべての税が一律の税率である
 という二つのパターンが考えられます。順番に分析していくことにしましょう。

【税率の中で各種の税の割合が決まっている】
 住宅税・工業税は所得税と固定資産税、商業税は所得税と固定資産税、消費税から成り立つということですが、これらが、SimCity内の税率(例えば7%)の中である一定の割合で分けられているのではないか、ということです。図示すると、
例えば、という例です。あくまでも
 こんな感じです。この場合、都市規模が拡大したらそれにともなって各税収が比例して増加するという構造になります。ただしこの場合、7%がデフォルトである理由が説明しにくいです。


【すべての税が一律の税率である】
 こちらは簡単に、それぞれの税の税率が指定した税率(例えば7%)に統一される、というもの。プログラム内部で、導き出される所得や固定資産価値(恐らく地価)などに一律の課税がかかるというイメージ。両者ともプログラム内の計算式に組み込むことが可能ではありますが、計算の都合を考えるとこのやり方の方がやりやすい気もします。

 また、どちらにも言えることですが、本来ならば税率はそれぞれまったく別のものとして調整する物だと言えますが、税収の基本的概念から言って、収支を調整することをその役割の一つとして捉えるならば、後者の「すべての税率が一律である」の方が若干そちらに近いような気がします。


 一つもしかして、と思ったことがあります。いわゆる補助金をもらえないSimCityは州という存在がない都市ということだがら、アメリカでそれに該当する都市を探してみると・・・・あった、ワシントンD.C.だ。首都ワシントンD.C.は州の権限も持つ特別区。ひょっとしてこれがSimCityのベースってことは・・・ないよね?

 と思って税率を見てみると・・・固定資産税(名目・実行税率とも)が・・・やっぱ思い過ごしか
ワシントンD.C.の税率の例(%) 51都市の
都市課税率の平均
51都市の
総課税率の平均
固定資産税 0.96 6.78(名目税率) 1.67(実効税率)
個人所得税率 8.6〜10.9 1.6〜4.8 8.0〜9.1
一般売上税 5.75 5.16 6.44
Washington D.C. Office of the Chief Financial Officer
Tax Rates and Tax Burdens in the District of Columbia
A Nationwide Comparison, 2000
より作成
 こうやってみると、ワシントンではなく、51都市の都市課税率の平均(自治体だけの課税率の平均)と平均総課税率(州+自治体の課税率の平均)のどちらかが実にSimCityの税率に近いようにも見える。
 四捨五入して考えると、固定資産税の名目税率(自治体による課税)は7%だし、個人所得税の総課税率は8〜9%、一般売上税は6%と実にSimCityチックに見えてしまいます。こう考えると「すべての税率が一律である」という推測の方が現実味が増します。
 とはいっても、なぜ固定資産税だけ自治体の設定による名目税率で、その他は州と自治体の総計税率であることを考えてみたらややこじつけ的ではあるかもしれない。

 また、SimCityが作られた時代、この税率だったかどうかは定かではなく(古すぎて情報がありません)、法人所得税率がわからなかったりと不確かな部分が多いため、推測の域を出ないのが現実です。


 全然情報が足りません。どこかにその情報(税率、SimCity内の税収の仕組み)がありましたらお教え下さい。

※1)固定資産税と財産税・・・Property Tax。課税対象は固定資産税というのは「土地+建物=不動産」にかかる税だが、州によっては不動産以外の、動産・無体動産を課税対象とする場所もある為、財産税という方が一般的のよう。ここではSimCity 3000公式戦略ガイドにのっとって固定資産税を採用。
※2)詳しくはわからなかったが、ここで登場した各州の代表である51都市には課税権はあるようだ。

参考文献:「シムシティ3000公式戦略ガイド」
参考Webサイト:
 国税庁「税の学習センター」
 財務省総合政策研究所
   「地方財政システムの国際比較(英米仏独の地方財政システム)」
   「主要国の地方税財政制度調査報告書(アメリカ)」
 U.S. Census Bureau
 TAX FOUNDATION
 Office of Management and Budget
 Sales Tax Institute
 Washington D.C. Office of the Chief Financial Officer
 Web入門財政
[戻る]