[#025]
 登場しない交通機関
(02/10/12)
 SimCityの交通手段は歩行、自動車、バス、鉄道、地下鉄と実に一般的な物でそろえられているが、必ずしもこれがすべての交通を表しているわけではないのは誰の目から見ても明らかである。

 実際の交通システムはどうなっているのか、「新交通システム」という言葉が広まっている最近の動向を踏まえて説明していくことにしよう。
 その前に、[#023]でアメリカの事例を見たように世界的に総合的な交通政策を必要とする時代になってきており、従来の自動車交通の欠点を補いながら、新たな交通体系を模索しているという現在があることを頭に入れておいて欲しい。


【自転車】
 いきなりなんだよ、と思われる方も多いかと思われるだろうが、近年注視されている交通手段である。正確に言うと、自転車を利用した交通体系の整備、である。自転車自体はSimCityでも走っていますが、普通に歩道を走る今までの形ではないものを指します。
 その特徴は誰もが理解できると思うが、クリーンで、健康的で、渋滞がなく、生死に関わる事故がないなど従来の自動車交通の欠点をクリアできる優れものであり、いわゆる欧米では自転車専用道の整備を進めている(といっても一般人の意識は日本とそう変わらない)。この自転車専用道だが、既存の自動車用道路の幅を狭くしてスピードを落とさせるというテクニックを用いると同時に、歩道、自転車道、車道をしっかりと分ける形で再整備されるケースが(住宅街に)多い。日本でもあるにはあるが、歩行者と完全に隔離できているかと言えば疑問が残るケースも少なくない。自転車を貸し出すサイクルステーションなどもある。

 SimCityではグラフィックで再現するのはちょっと厳しいのだが、「自転車道の整備」などといった条例があればそれを再現する事は出来ただろうが、そういった機能はない。


【LRT】

ストラスブール(仏)のLRT
写真撮ってきた
 たぶん今一番ホットな話題の交通機関であろうLRTは新型の路面電車で、Light Rail Transitの略である。
 路面電車の一種なのだが、その車両(LRVという)は近未来的で窓が広く、車椅子などに対応できる低床で、滑るように走る(とのこと)ので、風景も歩くのと同じ感覚で見ることが出来るという特徴を持つ市街地活性化や通勤の手段に用いられる事が多く、所によっては郊外では80km/hにスピードを上げたり、市街地では20km/hに落としたりする物もある。また、地下でも高架でも走るので路面電車とは必ずしもイコールではない。

 そもそも路面電車の歴史は古く、車両も古かったためイメージ的に「古くさい」「遅い」「自動車交通の邪魔」物として敬遠されていたが(路面電車関係の人、ゴメンなさい)、路面電車を最新技術によりよみがえらせたと言っても間違いではない。また、LRTがこれまでの路面電車と異なるのは、車両だけではなくその配置・利用方法にも違いがあるからでもある。

 まず、「自動車の邪魔」として扱われた路面電車の軌道(線路)を逆に優先させた道路に整備し、場合によっては専用道を設けたりもした。また、商店街が並ぶ道路にLRTしか入れないようにしたり(こういうものをトランジットモール※1)という)と、これまでと正反対の人に近づけて運行する「人に優しい」交通機関としていることが特徴である。また、そのLRT専用軌道のため、自動車に左右されずに運行できることによって、日本ではさして驚くことではないのだが「時間の正確性」が保たれる事が出来るようになったとして、通勤者にとって自動車を利用する以上の価値が出来ることになった(海外の公共交通は時間がいい加減)


 そんなLRTだがSimCityでは再現されていない。グラフィックのドット数的にも1タイル内で行うのが厳しいのはわかるが、実際アメリカで導入が進んでいないわけではないので少しどうにかして欲しいところだ。やっと車や人などが動き出したSimCity 3000ではまだちょっとムリだったのも仕方のないところかもしれないが。たぶん道路のグラフィックが精細化されない限り登場しないだろう。

 アメリカのLRT(アメリカではLight Railと言う)導入は、1981年のサンディエゴでの導入以来続々と計画・建設されている(表参照)。また、今後もどんどん増えることが予想される(路面電車の歴史はもっと古いけど)。
 「人に身近」な交通機関であり、トランジットモール化による市街地の経済効果を期待できるなどといった、これまでの自動車交通の弊害を救う救世主的な扱いを受けると同時に「地下鉄」を選択しないのは、建設費が地下鉄の1/10程で済むからである。もちろん、日本でも同じ理由で導入しようという動きは盛んでホームページなど多数見つけることが出来る。LRTとパーク・アンド・ライド(P&R)の組み合わせが人気(?)。
アメリカでのLRT導入の動き(導入済みのみ)
都市名 人口(千人) 開業年 路線(km)
サンディエゴ 1,000 81 75
バッファロー 328 85 10
ポートランド 500 86 53
サクラメント 1,000 87 30
サンノゼ 1,400 87 32
ロサンゼルス 3,600 90 66
ピッツバーグ 370 - 17
ボルチモア 750 92 41
セントルイス 453 93 29
メンフィス 702 93 10
デンバー 491 94 23
ダラス 1,000 96 20
ソルトレイクシティー 726 99 24
「交通まちづくりの時代」より
 

【都市モノレール】
 モノレールと言えば交通機関と言うより遊園地などの施設に行くための手段として思われる方も多いだろうが、立派な交通機関の一つである。とは言ってもモノレールは建設費が多少かかってしまうため最近はLRTに押されているような傾向があるように思われる。
 ただし、どうしても地上を走らせるわけには行かない場合などには有利であり、モノレールは急勾配にも強く、かつ直角に近く曲がることが出来るためビルの合間をぬって走ることが可能で、軌道も地上の面積が高架鉄道ほど必要でないという点からもモノレールしか利用できない所には最適な手段。跨座型(レールをまたぐタイプ)と懸垂型(ぶら下がるタイプ)がある。

 SimCityでは残念ながら再現されていない。グラフィック的には可能なレベルに来ているかもしれないが、建設方法が場所によって異なるため、再現されることは今後もないと思われる。2タイプあるし。


【ガイドウェイバス】
 バスなのだが、普通のバスと異なり渋滞に巻き込まれないよう一部専用軌道(地上もしくは高架)を走るバス。専用軌道を走る間はハンドル操作は不要で、専用軌道にバスに装着されたローラーを合わせて曲がって走る。昔のミニ四駆と同じような物と言った方がわかりやすいかもしれない。専用軌道のないところでは普通のバスとして走ることが出来るというのが一番の特徴。渋滞に悩まされない為、専用軌道内では高速で走ることができるバス(環境負荷も減る)。建設費はLRTの倍程度と言われている。

 あまり実用例(日本は名古屋のみで終わりそう)はないので、SimCityでも再現されるとすれば条例としてぐらいだろう。


【コミュニティーバス】
 具体的な定義はないものの、利用者を自動車に乗れない交通弱者(老人・学生)を対象としているバスを言うことが多い。福祉や住民サービスの一環としてほとんど自治体が立ち上げる。企業と異なる為、きめ細かな路線設定が可能だが、採算がとれないケースも多い。路線バスが廃線になって困るときに登場することもある。利用者が限られるので小型バスが多く、タクシーと路線バスの間という扱いをされることもある。要請に応じて出向するデマンドバスというのもある。

 SimCityではシム人の交通機関から住宅などへの移動距離を1タイル増やすことの出来る、「シャトルサービス」条例※2)がそれに相当すると言えるだろう。コミュニティーバスにもシャトル式もあるが、条例の効果からいくと一般的な「直通往復」のシャトルとは異なる感じを受けるのでコミュニティーバスが最適だろう。コミュニティバスは日本語なので当然と言えば当然かもしれない。攻略本によると、「シャトルバスが市内を巡回するようになり、シムが他の輸送手段を見つけるまでより長い距離を移動できるようになる」となっている。巡回するシャトルバス・・・やはりコミュニティバスだよな。


【AGT】
 Automated Guideway Transitの略で、ガイドウェイバスにも文字的に似ていなくもないが、これは自動運転のゴムタイヤ式の無人車両である(これを新交通システムということもある)。無人運転ゆえに専用軌道を走るので、建設費(管理費も)がかかるため、用途を限定し空港や海港と市街地のターミナル駅を結ぶ時に使われるのが一般的。モノレールも自動運転出来るが、AGTとは一般的には言わない模様。

 実際にも限定した場所でしか使われないのでSimCityで登場することはあまり考えられない。


【リニアモーターカー】
 リニアモーターといえばそのイメージは500km/hの高速移動、と思われる方も多いが、実際のリニアは別に高速走行することだけを目的としていない。
 日本ではすでにリニア地下鉄として大阪市営地下鉄の長堀鶴見緑地線と東京都営地下鉄の都営12号線が運行されている(タイヤで走るのよ)。ちなみに愛知万博に使われる予定の常電導磁気浮上式(HSST)の屋外型リニアもある(こちらは文字通り浮上する)。
 もちろん、リニア地下鉄の目的は500km/hも出すわけではなく(HSSTは100〜300km/hは出る技術らしい)、リニアモーターによって「モーターが小型化→車両が小型化→トンネルが小型化→コスト削減」の為に導入されているためである。

 SimCityではリニアモーターは登場しないが、SimCity classicのTOWNS版では時代が経過すると鉄道がリニアモーターカーに変わったらしい。それも高速移動じゃないと考えればある意味納得できるが、もちろん見た目だけの効果である。今後登場が期待されるものの、リニア地下鉄は条例かなんかの形で効率が上がるとかになるのではないだろうか?都市間移動のリニアは都市間の概念がないのでないだろう・・・・国からオファーがあったりするようになればわからないが。



 以上に上げた物以外でも動く歩道とか自動操縦の車などの研究もあるが、それはもうテスト的な物なので導入されるとは考えにくい。また、年代が2200年とかに平気でなってしまうSimCityだが、エアカーなどは登場しない。それはあくまでも実用化されるかどうかわからないという点と、それによって変わる都市構造にプログラム側が対応できないことからも来ているように思う。水上バスなどもあるが、そういう点でいえば再現されにくい交通機関なども実際には多くでる。
 
 ついつい新技術が登場すればいいと思ってしまうが、都市構造(すなわちゲーム内の都市プログラム)が変わることを許さないのがSimCityだと言えるだろう。
 
※1)トランジットモール・・・和製英語。公共交通機関(LRTやバス)だけが乗り入れできるという商店街が立ち並ぶ道。一般車が入れないように杭があったり(バスが来たら下がる)という工夫がなされている。英語ではpedestrian zone(=歩行者専用ゾーン)とか、pedestrian precinct(=歩行者用街路)といい、transitという言葉を使わない歩行者中心間隔があるように思われる(「交通まちづくりの時代」より)。日本でも導入しようと動いているが、まだまだ試験段階というケースが多い。
※2)シャトルサービス条例・・・SimCity 3000に登場する条例。これを施行すると交通機関からR・C・I の各地区への移動距離が1タイル増えるという効果がある。バスか鉄道か地下鉄が導入済みであることが条件。

参考文献:「クルマ社会アメリカの模索(ここで同じような内容が確認できます)」、「都市計画概論」、「交通まちづくりの時代」、「まちづくりのための交通戦略」、「鉄道のはなし」、「シムシティ3000公式戦略ガイド」
参考Webサイト:国土交通省
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