[#024]
 SimCityの鉄道
(02/10/03)
 [#022][#023]で述べてきたようにアメリカは徐々に鉄道の必要性を再認識してきた。

 しかし、SimCityの鉄道は・・・ショボい。
 まず、SimCityの鉄道の歴史の変化を追っていくことにする。
 
線路 地下鉄 地下鉄駅
SimCity classic $20 なし
(SFC版は一応ある)
なし なし
SimCity 2000 $25 $500 $100 $250
SimCity 3000 §10 §250 §150 §500
 
 驚いたことに値段が改定されているのだ。

 sc2kとsc3kでは、線路が0.4倍($25→§10)、駅は0.5倍($500→§250)と下がっているのに、地下鉄では地下鉄線路が1.5倍($100→§150)、地下鉄駅は2倍($250→§500)となっている。単位は違うのだけど、この扱いの違いはなんだろう。それに、鉄道線路と地下鉄線路ではsc2kが4倍差($25→$100)だったのに、sc3kでは15倍差(§10→§150)という驚異的変化を見せている点も見逃せない。

 一つ考えられるのは、[#023]で連邦補助が増えた歴史を説明したようにそこに補助が働いていると考えることが出来る。しかし、その補助が働いて鉄道が建設できるとするならば、地下鉄との差はいったいなんなのか?実際にこれほど差があるのだろうか?・・・と思って調べてみるものの、鉄道と地下鉄で補助率が云々(うんぬん)というのは見あたらない。というのも調べたところで、これこそ都市によってまちまちだろう。

 地下鉄が高い理由が一つ考えられる。
 現在すでに地下鉄を導入している都市では、地下鉄を増やすためにはどんどん深くしなければならないため(交差するから)地下鉄路線の建設費が1キロ当たり「ン百億円以上」になってきており、これ以上は利用度的にも財政的にも厳しくなってきている。その為、欧米では1キロ当たり「十数億円」で済んでいるというLRT(軽快路面電車)を導入しようという動きが盛んなので日本にも、という動きも盛んです(LRTについてはまた別の項で)。
 しかし、新しく地下鉄を建設するんだからそういうことではないかもしれない。ただし、人々のイメージ的に「地下鉄建設費は高い」というような現実的値上がり感をゲーム内で見せているのかもしれない。

 鉄道は用地買収にお金がかかりますが、なんといってもそのプロセスがないため非常に安くなるのは理解できます(維持費にはべらぼうにかかりますが)。



 SimCityの鉄道というのは[#023]で見てきたような変化に対応していないかのように鉄道がショボい。最近導入が進んでいるLRTどころか、これぐらいやって欲しいという「高架」もない。実際の鉄道が高架になるのは都市部の、それに地下鉄に接続するような物が多いので、郊外ならこれでも納得行くのだが「City」と銘打っているのに・・・という思いもある。

 明らかにデフォルメされているのがわかる鉄道系の施設ではあるが一応検証していくことにしよう。

 その前に押さえておくポイントはアメリカは電車とは言わないことである(英語だからと言うことではない)。
 というのも、アメリカほど広大になってくると区間距離が長く、管理が必要以上に大変になるため電化している区間が都市部に限られていて、都市部以外を走る列車は「ディーゼル機関車」になる(日本でもかなり田舎ならそうなることもある)。ちょっと環境に悪そうに思われるが、それでも同じ人数を運ぶ時に排出するCO2は自動車の1/3、航空機の1/6ともいわれている※1)

 念のため断っておくが、地下鉄は電気で走る、いわゆる電車である(地下で排ガスは×)。地下鉄と接続する高架鉄道、近郊鉄道でも電車は走る。
車両
 グラフィックを見る限り機関車。しかもディーゼルではなく明らかに石炭機関車。・・・いつの時代だ。どうもSimCityにおいてはアメリカの変化とは関係なく、20世紀前半〜中盤の鉄道を利用しているようだ。とはいってもこういったのが走っているところもあるにはあるらしい。また、機関車式であることから、架線がない=電気を必要としないのがわかる。都市周辺の鉄道は普通の電化された列車なので日本と同じ(sc2kは機関車じゃなかったけど・・・)。都市内は地下鉄が多い。
 長距離鉄道であるアムトラックはワシントンD.C⇔ニューヨーク間だけ電化された高速鉄道が走り、あとはディーゼル機関車(右写真)。
線路
 パッと見はあまり信用できないのだが、単純に見ると片側一車線の複線なので、単線によくある正面衝突は起こらないハズ。ただしこの図のようなループは普通の車両では不可能(台車がカーブに合わせて動くステアリング台車※2)でもムリかと)。なお、4車線の複々線にしたいと思っても交差ばかりできてしまうので、交通量が増えたら自動的にプログラム内で増やしていると想定するしかない。幅的にはそれぐらいある。
 アメリカは広大な土地なので都市部以外では電化されていない区間も多いため架線がない(右写真)ことも多い。
駅舎(駅本屋)
 プラットフォームを除く駅施設を駅本屋といいます。基本的にアメリカも日本も都市内の鉄道駅は高架もしくは地下にあることが多いので、こういった駅は中規模〜小規模の都市や郊外で見かける。
 アメリカの鉄道は田舎になると写真(アムトラック・メンフィス駅)のような駐車場からすぐ入れてしまうというプラットフォームがあってないような駅が増える。改札通らなくてもいけるので車両の入口が決まっている。sc3kの明らかに足りないプラットフォームはそういうことかも。
地下鉄
 本来は同じ路線でなければ高度が変わるはずなのにすべて同じの為なぜか交差点が出来てしまうが、地下鉄は当然直角に曲がれないのでそれこそ事故が起きてしまう。高度別レイヤーを設けるのがめんどくさかったのでこのようになっていると思われる。本来は新しい路線を造れば作るほど深く掘らなければならず、コストが余計にかかってしまう。普通は自治体の土地を使わなければならないので道路の下に作ることが多くなる。
 ちなみにニューヨークの地下鉄は4車線で急行がある路線もある(右写真)。
地下鉄駅
 アメリカでも普通の地下鉄の入口は日本と同じように歩道上に作られる。ただし、アメリカの都市ではちょっと広いパブリックスペースがあれば図のようなガラス張りの地下鉄入口も見かける。駅構内はもっと深く、広いはずだが省略されている。地下鉄は電気が必要だが、駅以外に電気は供給されない。
 右図のように駅を作ると、電車が駅の手前で停止するので、このときに乗り降りしているという感じなのかもしれない。プラットフォームがそこに出来ていると仮定して(どう頑張っても64m幅いらないし)。
地下鉄⇔鉄道
 地下鉄と鉄道を接続する、という説明しか載っていないが、機能を見たところ地下鉄駅でもあり、鉄道駅でもある施設のようである。よーく見ると少し浮いている所から見ても、プラットフォームが上がっているので、地下鉄で降りて地上に垂直に上がって鉄道に乗る、という列車ではなく人が移動する役割(乗り換え)だろう。
 sc2kでの地下鉄⇔鉄道は、右のような線路が地下に引き込まれるという構造だったが、まったく違うシロモノになっているようである。
踏切
 ただし関連する機器などは表示されていない。表示されたら重くなるだろうけど。
 SimCity3000の列車はなぜか歩行者や車が先に通ると停まってそれらが通り過ぎるのを待つ(右図)。
 ご存じだろうが、列車は慣性で動いているので普通こんな風に停まることは難しいので、かなりスピードが遅い(一々真剣に見ない!)と思われる。
機関庫
 機関車だけを入れる車庫、機関庫だと思われるが、列車がここしか行くところがないのだから車庫かもしれない。車庫には検査をするものと修理をするもので分かれている車庫や、何百台と収納できる車庫もある。大きな車庫ならば普通は路上に出しっぱなしの部分が大半。検査したり修理したりする場所だけ屋根付きということもある。
 ちなみに機関庫をどうしても表示させたくないときは坂道で終了させるとか、一つ長めにつくって置いて、終点部分に電線を架けたあと車庫を消せば可能である(右図)。ここから見ても飾りであることがよくわかる。
分岐点
 見た目45°であるが、それはさすがにデフォルメが効いているので実際そうであるかはわからないが、最小曲線半径※3)は少なくとも100m(90km/h以下の場合)は欲しいので、右図のようになる。そうすると単純計算して29.3mの幅と70.7mの距離があればよいので1タイル(+ちょっと)で出来ないことはない。本当は分岐の前に緩和曲線というカーブを全体的に和らげる曲線も必要だが、64m幅あるのでその中で行えると言えよう。ちなみに直角の分岐点は図から見ると100m必要ということになる。
カーブ
 普通は緩やかな曲線を描かなければならないのですが、分岐点を見たように45°もしくは90°以外がありません。最小曲線半径は日本では110km/hを超える場合は600m、70km/h以下は160mというに速度別に決められるのが普通。それを超えると脱線してしまう可能性もある。また、カーブにはカントと呼ばれるカーブの内に対しての傾きが必要・・・それを再現するのがめんどくさいとか?さすがにそれはないか。単に高度内に収まる数字だからカントはついてないのだろう。
勾配(こうばい)
 勾配は機関車が牽引(けんいん)する重量で水平に1000m行って垂直で10m登ると10‰(パーミル)と言うような数値が決められているわけだが、SimCityでは448m行って169m登れるというので、なんと377‰!日本では牽引重量が通常500t未満で35‰、リニアインダクションモーター※4)推進方式でも60‰としているだけにこの数値はちょっと・・・。SimCity3000では勾配がきついと山を整形してしまう。
 といってもこのパーミルを再現しようとすると10‰の場合1レベル(13m)高いところまで上がるのに1300m(=20タイル)必要となり、視覚的におもしろくない。また、グリッドが細かいわけでもないので蛇行しながら坂を上がるようなことは再現できなかったのだと思われる。
トンネル
 勾配がきついとき(勾配レベル4の時、右図)、平面より1タイル上がったところまで道路・線路をひくと建設が出来るものの、山をくりぬくため建設費がべらぼうにかかる。現実も同じように極力トンネルの建設を避ける傾向がある。その為、谷間、河川沿いのルートが多い。シールド工法※5)等の登場により、昔よりはトンネル建設が楽になっている。
 本来、地下鉄と同様に排水対策のために3‰ほど傾けるのだが、SimCity3000では3‰を再現すると68タイルいったところでやっと高度が一レベル(13m)上がる程度の傾きなので再現されていないと考えていいだろう。

 多くの疑問が残る結果となってしまった。
 結論から言ってしまうと、やはり鉄道に関して言えばSimCity classic以前の時代の状況を表しているようであり、なおかつ施設としてと言うよりもあくまでも移動手段の一つとして位置づけられているだけにも感じる。なんといってもSimCity 2000では箱形列車だったのがなぜSimCity 3000で機関車になってしまったのか。地下鉄⇔鉄道はなぜ乗り換え式になったのか。・・・・鉄道が、単なる貨物がメインの機関車になっていることが一般化していることを示しているのかもしれないが、現実は公共交通機関の再生が始まっている。

 SimCityの更新を行っているだけなのだろうか?
 
 
※1)野田 秋雄 著 「アメリカの鉄道政策」より
※2)ステアリング台車・・・列車の載る台車の車軸自体がカーブに対応して曲がるもの。ステアリング台車じゃないものは、台車自体がカーブに合わせて動いていた。その為ステアリング台車に比べると小回りが利かない。ただし、ここによると最小曲線半径が50mでも曲がれるとか?
※3)最小曲線半径・・・日本の普通鉄道構造規則で設計速度と、それに見合う曲線を描く線路じゃなきゃだめよ、というもので決められる。
※4)リニアインダクションモーター・・・LIMともいう。リニアモーターの駆動方式の一つの形。
※5)シールド工法・・・刃のついたシールド(盾)を回転させながら掘り進めていき、掘ったところをすぐ固めてしまう現代の一般的なトンネル工法。地面を掘ってトンネルを埋める必要がないので地下鉄路線建設や、軟弱地盤に使われることが多い。下水道などにも使われることもある。

参考文献:「クルマ社会アメリカの模索(ここで同じような内容が確認できます)」、「都市計画概論」、「都市の交通を考える」、「交通まちづくりの時代」、「まちづくりのための交通戦略」、「アメリカの鉄道政策」、「岡並木教授の右脳フォーラム」、「アメリカ鉄道論」
[戻る]