[#015]
 財政とゾーニングの関係
(02/06/08)
 アメリカでは郊外住宅地や農地などは大きな区画を敷く事があります。農地はSimCity3000でも8×8タイル以上という条件を見てもおわかりになられると思いますが、住宅地はどうでしょう?

 普通、郊外住宅地の一件の敷地規模は500〜1000m2(150〜300坪、0.13〜0.25エーカー)と言われているが、自治体は低密度で高価値の開発を促進させるために時には敷地規模を4エーカーという大きな制限にして(規制緩和)、富裕者層(お金持ちの人たちのこと)を集めより高い税収を確保しようとする−これを大敷地地域制「large lot zoning」という。

極端な例。ホントはこれの
1/3と考えれば大敷地?

 誰だってお金があれば広くて、いい家に住みたいですよね?
 ということで、お金を持った人たちがそういった大敷地地域制によって区画制限の大きくなった所に引っ越して大きな家を建てるわけです。SimCity3000でも地価が高くて大きな区画があれば低密度で豪邸が建ったりすることもありますね(右図)。

 そもそも自治体がこんなことをするのは、アメリカの自治体のほとんどは財源を国からの補助金をほとんどあてにせず、独立財源によって都市が運営されているからである。
 これは「地価」と「税収」を意識しながらSimCityをやっていればよくわかることですよね。

 しかし、こうすることによって郊外に富裕者層のみが移住し(貧乏人は購入費・財産税・管理費が払えないのでしたくても移住できない)、その反動として都心での犯罪率上昇、財政基盤の落ち込み、といったような「インナーシティ問題」がアメリカでは顕著に現れているのが事実である。
 お金を手に入れるのも色々と弊害があるのである。


 こういうような区画分けとしてのゾーニングは差別の手段としても適していました。
 先程アメリカの自治体は日本と違って財政を国からの補助金にあまり頼っていない(というか頼れない)、と説明しました。これはこれで素晴らしいことのように聞こえますが、実際は世の中お金を手に入れることは楽ではないので自治体も相当苦労をする羽目になります。

 そのため財政の確保、とりわけ財産税についての関心が高く、その内(アメリカでは)不動産が財産税収入のほとんどを占めています。日本では固定資産税がそれに該当してると言えますが、これが地方税の中心となっているのが大きな違いです。

 が、いつもそればかりですべてを満足させることはなかなかできません。だてに日本の自治体が補助金に頼っているわけではありません(えらそうに)。自治体は営利を追求する企業でもないので、そうそう黒字でいられるわけがないのです。
 アメリカの場合、財政が苦しくなってきたとしても国や州を頼ることはできないので(若干は頼れる模様)、SimCityでもおなじみの税金の引き上げとか公共サービスの質や量の低下をするわけです。なんせゾーニング権限に限らずこういった法制度の権限は地方自治体にありますから、こういったことも実行できてしまいます。

 上の組織に口出しされない代わりに金も出してもらえないのです。まるで両国の若者の扱いの違いを表しているようです。


 実はこのような状況がゾーニングの性格を決めてしまいます。いや、これ(財源)をコントロールするためにゾーニングが用いられるようになるのですね。
 税金の使い道は公共サービスが主ですから、その公共サービスの需要量をコントロールできれば支出が抑えられるわけですから、頑張って土地をゾーニングでコントロールしようとします(サービスの質はできるだけ落としたくないですから。ストも困るし)。それが公共サービスを必要としない施設の推奨や高価値を生む土地利用を引き起こします。

 前者は行政側が支出を少なくても済むような施設−例えば郊外の工業団地や研究所などの比較的低密度で、高価値の施設−を好んで立地させる。公園や学校などのお金にならない施設の設置を極力避ける、というような弊害を呼びますし、後者は前回説明したような高地価(高い税金が手に入る)が期待できる富裕層の為のゾーニングが行われたりする。

 こういった「収入」にこだわる自治体構造上の悲しさが(SimCityでもやりますよね)、富裕層の「生活の質(Quality Of Life)」を求める声とマッチし、生活に余裕のない人たち(特に黒人が多かった)を隔離するような排他的ゾーニングが始まる事となった。
 
排他的ゾーニング
 19世紀後半、推し進められた工業化が労働力となる他国からの移民や農業従事者(アフリカ系アメリカ人)を都市部に集中させ、多くの貧しい人たち(貧困層)が生活をはじめる。彼らが生活をはじめ、そこに労働者層のコミュニティが作られる。
 かたや狭い高層住宅や悪化する生活環境に嫌気がさしたアメリカンドリームを成し遂げた類の富裕層(中産階級)は郊外に低密度で広い家を建てるようになり、そこでコミュニティを構成することになった。そうすることで都心の高密度住宅は廃れるか貧困層が利用するようになり、漫然的に富裕層と貧困層との生活圏が分けられることになった。

 誰しもまず自分の生活からよくしたいと思うので、郊外に移り住んだ富裕層は自分の財産権や生活環境を守ろうという意識が働き、十分な教育を受けることができないで犯罪・ドラッグなどに手を染める貧困層(黒人がイヤというのもある)が入居できないような郊外住宅地の低密度大区画(⇒高地価)のゾーニングの施行を自治体に働きかけることになった。
 こうすることで貧困層では到底住むことのできない土地ができた。ゾーニングという法律によって人種差別が行われたのである。こういった富裕層の内だけの都合を推し進めたゾーニングを「排他的ゾーニング」と呼ぶわけです。

 これが自治体で通ってしまったのは、そういった判決が通ってしまったという訴訟社会(事例社会)の事実と、とにかく独立採算制の自治体は出来るだけよい財政が得られるようにと望んでいたからである。自治体や裁判官を支える市民の多くは「知識」のある富裕層で(貧困層は不法移民とかもいたから)、その都合のいいように進められてきたのである。

 もっともこれは昔の話であるが、残っていないといったらどうだろう? 


 というわけで暗い歴史があるワケなんですが、自治体としてもサービスを提供しないといけないので(そういう風になってしまっているという現実も悲しいですが)お金を何とか捻出(ねんしゅつ)しなくてはいけないというのは理解してあげて下さい。これに限ったことではないですが、問題というのは何かしらどこかに繋がりがある物なのです。


 だからといって低地価になればいいという簡単な問題ではありませんし、SimCityでもよく行われるような高地価の地区がたくさんできればいいというのもどうでしょう?

 「排他的ゾーニング」のような差別は避けるのはもちろんです。が、だからといって地価が低ければ財政が上がらず、結局は行政サービスレベルを下げて市民に迷惑をかけることになったりしてしまっても本末転倒です。世の中綺麗事ばかりでやっていけないのですが、「必要悪」として改善しないのでは困りものです。

 現実論としてどうすることが出来るのでしょうか?ゾーニングはどういった利用が正しいのでしょうか?


 ・・・いや、答えなんていいませんよ。そういうスペースでもないですから。とにかく、色んな面を知っておいた方がいいでしょう、ハイ。

参考文献:「ゾーニングとマスタープラン」、「現代の都市法−ドイツ・フランス・イギリス・アメリカ−」、「土地取引・利用・保有の基本方針」、「現代アメリカ都市計画」、「都市計画を考える−アメリカと日本−」
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