シムシティーは、「オモチャ」か「ツール」か?


原文:HABITAT Issue4: July 1997 SimCity: Toy or Tool ?,
The Centre for Education in the Built Environment (CBED)

 Chris Yewlett & Chris Webster,
 Department of City and Regional Planning  University of Wales, Cardiff
  (英国国立ウェールズ大学カーディフ校 都市・地域計画学科)

SimCityとは何か

 SimCity(ここではSimCity 2000を取り上げる)は基本的には娯楽用コンピュータゲームとして生まれた。しかしながら、これは単なるゲームではない。これは都市の成長や開発のプロセスをシミュレートして見せてくれる物なのだ。事実、開発元のMaxisは、1996年末までに500万枚以上を売り上げたこのソフトを「究極の都市シミュレーター」と銘打っている。

 このゲームは、都市が成長し拡大するプロセスをモデル化して見せてくれる。この種のゲームにはお約束の高品質のグラフィックシミュレーションだけではなく、シミュレーション自体は「外部効果」や「スピル・オーバー効果」、「公共財」、「公共選択」、「地価」、「アクセシビリティ」、「都市の閉鎖性・開放性」、「空間的相互作用」、「空間的平衡」などのプラス・マイナスの影響のような表面的には出てこない非常に凝った理論的なコンセプトを利用している。

 手短に言えば、このシミュレーションにおいてユーザーの立場は最高行政官としての市長(これはアメリカ式。イギリスでは単なる名誉職にすぎない)であり、都市計画と土木学両面において非常に広範な権力を持っている。まず始めに開発にふさわしい地形を作り、続いて異なる密度の住宅・工業・商業地区を区画し、道路や発電所、水道管や送電線などのインフラ整備をするのだ。

 シミュレーションは、「魅力ある」新しい都市区域が「シム」と呼ばれる住民たちを引きつけ、彼らは土地配分、金融制度、インフラ供給に応じて住宅や工場や商業中心地等を順番に作る、という仕組みに根付いている。この居住者たちは(暴動時を除いて)通常は表示されないが、交通状態ははっきりと表示される。都市のメイン画面では、どんなに様々なスケールにしようとクォーター・ビューで都市を見ることができ、任意に切り替えられる「地下」レイヤーモードでは、網細状の水道網を見ることが出来る。

 都市発展プロセスの間に、地域的なインフラのつながりもまた「仮想住民」により発生する。「市長」は各種サービスへの支出や収入のような基本変数を見直しを求められる。彼/彼女は、現在の財政事情を表示した予算ウィンドウだけでなく、無数の他のウィンドウの基本変数の組み合わせに際限なく関わることができる。また、教育的な興味と言うより気張らしの為に、火事や洪水、地震、竜巻(イギリスのものとは異なる)といった「災害」や「モンスター」を呼ぶオプションを使ったり使わなかったりしながらシミュレーションを走らせることもある。プログラムの詳細と画像の方はPaul Adamsによる、1996年刊のGeocal(CTI Geography, Geology and Meteorology のニュースレター)No.15の24〜27ページのProduct Reviewに含まれている。

プランナー体験

 このゲームは都市計画プランナー志望者に多くの物を提示してくれる。シミュレーションは技術的制約よりも、アメリカ合衆国での政治的、地理的特徴による制約を反映しているように、とてもリアルではあるがその中にも制約がある。地理的、政治的にいえば、SimCityの政府は通勤の点からそれぞれ都市が独立して離れているというアメリカ中西部の典型的な住民の状況を反映したものだが、他の都市と経済交流をしたり、経済的誘引があればほぼ無制限に人々が移住してくる。これはもちろん、都市は日々の交流を基本としている西ヨーロッパやアメリカ東部のように混み合っている地域の状況との対照的な点である。その上、都市は独立した経済主体をもっており、例えば投資のための借金(収益を増やして返済するようになっている)は利息の限度額はない。

 カーディフにてSimCityが教育に使われてきた2つのケースがある。学部学生レベルでは、(都市・地域計画の)学士二年目の、Chris Websterの「計画と市場」モジュール(10回の授業単位)と絡ませて行われた。このモジュールの目的は、都市構造や都市計画の経済理論を学生に紹介するために、そして計画が介在した・しなかった都市の成長や形成を調査するためである。このモジュールはそれ自身が、教育目的のためのインターネットや電子メールの広範な利用を促すと述べている。興味を持った読者は、http://www.cf.ac.uk/uwcc/cplan/ でそれ以上の情報を参照するとよいだろう。

 このコースを初めて始めた時、SimCityでの制作は成績評価に含まれていた。しかしながら、続くコース開発では、これは最も適切なアプローチではないと提案し、その代わりに、今SimCityは二年目の始めに評価されない入門的な実習に使われた。これは調査する機会を視覚的、ダイナミックに提供し、コースの後に多くの法則や理論をより形式的な形で教えた。SimCityは、都市構造や都市計画の経済理論への教育的ながらも面白い形での価値ある入門を提供した。それはまた、シミュレーションの結果を得るためにコンピュータを使うものの、すべてのコンセプトを経験させる。

 SimCityは大学院生レベルにおいても利用され、それは都市・地域交通の修士コースの一環としてChris Yewlettによって「交通のための計画」モジュールにて行われた。この修士課程に登録された学生の大部分は学部学生よりもコンピュータスキルをもっていたが、計画の実質的で手続きの世界に精通していないために、このプログラムは対照的にコースの最後で経験させられた。「交通のための計画」モジュールでは参加者にイギリスの法定の計画体勢だけでなく、また交通計画の基本も伝えようと試みるのだが、このグループは必ずしも内在的な経済理論の広範的な理解力があるとは思われていない。それでもこのシミュレーションは、土地が特別な配分をされることによって都市が実際に成長するかもしれないプロセスへの有益なグラフィック導入を供給する。

 このグループの特別の一つの短所はおそらく、意味のある「交通操作」が働き始める前に何十年の間シミュレーションを走らせる必要があることである。似た発展が行われるMicroproseの「Transport Tycoon」のいくつかの可能性をここに提示する。SimCityが交通は変数次第として見なし、都市成長のプロセスをシミュレートすることを追求したのに対して、Transport Tycoonはそれと対照的にいくらか詳細に都市のレイアウトを規定することをユーザーに要求し、それから、相応しい交通発展反応を処理する。Transport Tycoonは最近再びMicroproseから約10ポンドでリリースされた。これは40ポンドのSimCityと比較すればお勧めな点である。
翻訳:tkiyoto

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