“シナリオの意味” By Will-Wright


ウィル・ライト 著 多摩豊 訳,ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて,角川書店,1991

シナリオの意味
 シナリオはそれぞれシムシティーの典型的な問題が起きる
 シムシティーには8本のシナリオがついている。このシナリオをつけるっていうアイデアは、勝ち負けがはっきりわかるような要素があった方がいいんじゃないかっていうブローダ・ボンド社のアドバイスから思いついたんだ。

 シムシティーには勝ちとか負けって考え方はない。誰かと勝負して街を作るわけじゃないからね。評価ウィンドウにシティスコアっていう数値があるけれど、僕自身はあれもちょっとした冗談のつもりで作ったんだ。シティスコアはシムシティーの中身のいろいろな状況を一つの数値に表しただけで、別に高ければいい街ってわけじゃない。
 だけどゲームとしては、たしかに勝ち負けははっきりしたほうが面白いかもしれない。そこで、勝ち負けって要素を利用しながらシムシティーの遊び方を理解してもらう方法がないかって考えているうちに思いついたのがシナリオを使う方式だったんだ。

 シナリオはそれぞれにシムシティーの典型的な問題が起きるように設定する。そして、その問題を解決できればプレイヤーの勝ち、できなければ負けっていうふうにすれば、プレイヤーは勝つか負けるかって楽しみを得ることができるし、おまけに街に起きる問題に対処する方法も学習することになる。一石二鳥ってわけだ。

各シナリオのテーマ
 東京のテーマは環境汚染対策
 怪獣退治は目的じやないから間違えないように
 シナリオはそれぞれ、シムシティーの街に起きる典型的な問題を一つずつ持つようになっている。決められた期間のうちにこれを解決できなければプレイヤーの勝ち、街の鍵がもらえる。できなけれに市長の職を解かれる。

 シナリオはリアルなものからリアルじゃないものまでいろいろな種類があるけれど、これを全部解決できればシムシティーのたいていの問題は対処できるって思って間違いない。それじゃあ、それぞれのシナリオのテーマを紹介することにしよう。

 ダルツビルの抱える問題は『退屈』。ようするに発展が止まってしまった街を開発するのがテーマだ。これはシナリオの中では一番テーマがはっきりしていないものだけれど、難易度はそれほど高くない。小さな街を発展させるだけなので大きな問題があるわけじゃないんだ。ただ、このシナリオは期間が長いので、なかなか終わらないかもしれない。

 サンフランシスコはごぞんじ1906年の大地震がテーマ。実際には、地震の後に起きた火災をどうやって迎えるか、その後街をどう復興させるかがテーマになっている。そういえば、最近1989年の地震をテーマにしたシナリオをつけたらどうだという話をよくされるけれど、1989年よりも1906年の方が災害の規模は大きかった。だから、1906年が解決できれば1989年もそれほど難しいことはないはずだ。

 ハンブルグのテーマも火災だけれど、サンフランシスコと違ってここの火災の原因は爆撃になっている。この二つのシナリオに関しては、実際の街を自分ならどうやって作っていくかって楽しみ方もできるようになっている。

 ベルンの問題は交通渋滞。これは都市再開発っていうテーマも扱っている。交通渋滞は街が大きくなればかならず起きてくる問題で、ベルン以外のシナリオでも問題になる。ここでは交通渋滞だけに注目して、思い切った再開発を行なって欲しい。

 東京のテーマは環境汚染対策。怪獣を生み出してしまうほど環境汚染がひどい状況を改善するのがテーマだ。怪獣退治は目的じゃないから間違えないように。怪獣の被害を復旧するだけじゃなくって、環境汚染をなくすような都市再開発を目指して欲しい。

 デトロイトは犯罪と失業対策がテーマになっていて,ランドバリュー(地価)を上げて雇用促進を考える社会派シナリオってところだ。犯罪の増加っていうのもたいていの街が抱える問題。シムシティーではいちばん大切な地価の上昇っていう方法で対処していってほしい。

 ボストンのテーマは原子力発電所のメルトダウン対策。これも災害後の都市再開発がテーマだけれど、放射能汚染は他の災害といろいろと違いがあるので、再開発のしかたもだいぶ違ってくる。事故現場周辺にまったく使いものにならなくなるので要注意だ。

 リオデジャネイロの問題は洪水。これは水害にどう対応するか、さらに水害の可能性がある街をどう再開発するかがテーマになっている。

 シナリオの中には、ちょっとしたトリックを使うと簡単に勝ててしまうものもある。でも、さっきも書いたようにシナリオの勝ち負けっていうのはそれほど重要な要素じゃない。大事なのはそれぞれのシナリオをプレイして、典型的な問題の対処法を学習することなんだ。この後でシナリオに勝つためのトリックの説明もあるけれど、できればそういったものは使わないで正面から問題に取り組んでほしい。

街の特徴
 規模は小さくてユニーク
 ところで、シナリオに登場する街は、ダルツビルを除くとどれも有名な街で、おまけに一目見ただけでその街だってわかる特徴を持ったものばかりになっている。グラフィック的に面白い街を選ぶのは結構苦労した点なんだ。

 シナリオの候補としてロンドンやパリもあがっていた。ところが、ロンドンの場合は街の規模が大きすぎてうまく地図に表現できなかったし、パリもやっぱり規模が大きすぎた。それにパリの場合は街の道路が碁盤の目のようにはなっていないので、シムシティーではうまく表現できないって問題点もあった。規模は小くてユニーク、これがシナリオに使った街の条件だった。

 形の上での街の特徴っていうのは、水によって作られることが多い。それぞれの地図を見てもらえばわかるけれど、どの街も川とか港とか、水の部分が街の地形を形作る要素になっている。だからこれをうまくシムシティーの地図で表現できれば、それでたいていはその街だってわかってもらえるんだ。結果として8つの街がシナリオになったんだけれど、なんとかそれぞれの街の特徴をうまく表せたと思っている。

シナリオのもう一つの遊び方
 この方法を使えばすぐに大きな街をプレイすることができる
 さて、ここで災害が起きるタイプのシナリオを使った別の遊び方を紹介しておこう。

 これはもう気づいている人がいるかもしれないけれど、シナリオをロードしてすぐにその街をセーブして、一旦シナリオを終了してからセーブした街をロードし直すと、街はそのままで災害が起きないようになるんだ。これを使えばサンフランシスコに地震はこないし、ボストンの原子力発電所はメルトダウンを起こさない。
 こうして最初の災害を回避してから、実際の街を自分なりに再開発する。これはシナリオとはまた違った遊び方だ。自分で大きな街を作り上げるのはなかなか大変だけど、この方法を使えばすぐに大きな街をプレイすることができる。

 大事なのはシナリオの街で遊ぶこと。東京に地震を起こしたり、怪獣にサンフランシスコを襲撃させたり、いろいろなことを試してみて遊んで欲しい。

ウィルからのアドバイス
Tokyo
 シムシティーは最初「怪獣が街を壊すゲーム」と紹介されたことがある。怪獣が出てくるってのはそれぐらい印象的だったみたいだ。
 さて、リアルなシミュレーションを目指したシムシティーに、どうして怪獣なんて非現実的要素を持ち込んだのかを説明しておこう。

 シムシティーのプレイ中に起きるたいていのことは、プレイヤーが行ったことが原因で起きる。地震とか竜巻なんていう例外もあるけれど、たいていの問題はプレイヤーの街作りに原因がある。逆にいえば、プレイヤーが気をつけてさえいれば、問題が起きるのを防げたり、被害を小さくできる。これは怪獣にもあてはまるんだ。
 怪獣は環境汚染があまりにひどいと出現する。そして汚染された街を破壊して回る。環境汚染がそれほどひどくなければ怪獣は出現しない。ようするに、怪獣の出現を防ごうと思ったら、環境汚染に気をつけていればいいってわけだ。

 もし環境汚染がひどくなっても住民が文句をいうだけなら、環境問題に対するプレイヤーの取り組み方はそれほど真面目じゃないかもしれない。でも、もし怪獣がやって来るってことになれば、環境問題にかなり気を使うんじゃないだろうか。怪獣と環境汚染を結び付けた理由は、要するにプレイヤーに環境問題を軽くみないようにさせたかったってこともあるんだ。

 怪獣が襲う街はどこが一番だろうか。もちろん考えるまでもない。東京だ。というわけで、東京シナリオのテーマは環境汚染、問題なのは怪獣の襲撃ってことになるわけだ。
 東京シナリオはシナリオの中では難しい部類に入ると思う。なにしろ、シムシティーには怪獣を止める方法がなにも用意されていないから、一旦出現した怪獣は、ある程度の破壊活動を行うまでいなくならない。で、破壊されたあとを復旧する作業だけれど、これは火災なんかよりは楽かもしれない。怪獣の破壊はその場所を踏み潰して壊すだけで、爆発が起きない限り回りに被害が波及することはないからね。怪獣の襲撃コースはランダムだから、場合によっては全然被害がないってこともある。

 東京シナリオは怪獣の被害から街を再建させるだけじゃなくって、環境汚染対策まで考えて街の再建を試みて欲しい。
San Francisco
 いろいろな人から1989年のサンフランシスコ地震をシナリオにしたらどうかっていわれることがある。だけど、今回の地震より1906年のほうが被害は大きかった。だからこのシナリオがこなせる人なら1989年の地震だって簡単に対処できるはずだ。

 さて、このシナリオのポイントは、地震の後に起きる火災対策だ。実際、1906年の地震のときには、地震による被害より火災の被害のほうが大きかった。これを最小限に食い止めることができればシナリオも勝てるってことになる。
 ちょっとずるい方法としては、地震が起きたら即座にゲームをポーズして、火災が起きた場所の周辺を空き地にして延焼をふせぐっていう手がある。これはかなりうまくいくけど、本当なら時間を止められるわけじゃないから、やっぱりずるい。ポーズをかけないで、消防署の増設と延焼対策をしながら頑張ってみて欲しい。
 
 余談になるけれど、1989年の地震は我々がいかにベイブリッジにたよって生活してるかってことを認識させてくれた。
 ベイブリッジが使えなくなって、サンフランシスコとオークランドの間の行き来が湾をぐるっと回らないとできなくなった時期は、交通渋滞は一層ひどくなった。それまでは車で通勤してた人達が使ったおかげで、BARTもとんでもなく混雑するようになった。ところがブリッジが復活した後も、陥没したのをみたおかげで、それまではわざわざサンフランシスコまで買物に行っていた人達がオークランドで用をすませるケースも増えた。とにかく僕たちがどれほどベイブリッジを利用してるか、いざ使えなくなってはじめて本当にわかったって気がする。
Boston
 シムシティーのシナリオは、かなりリアルなものとそうでないものの二種類に分けられるけれど、このボストンはリアルでないほうの一つだ。少なくとも、今のボストンのダウンタウンに原子力発電所はない。こんなところに原子力発電所を作ろうとしたら、住民運動などの反対が大変だろう。

 さて、ボストンのシナリオで一番簡単に勝つ方法を伝授しよう。原子力発電所がメルトダウンを起こす前に、これを爆破してしまうのである。当たり前のことだけど、原子力発電所がなければメルトダウンは起きないから、放射能のことなんかも考える必要がなくなる。もちろん代替の発電所は必要になるけれど、これはたいして問題じゃないだろう。メルトダウンを起こす原子力発電所を壊してしまうのはずるいと思う人もいるかもしれないけれど、これはこういうふうにも考えられる。ようするに住民の反対運動などで、発電所が廃止に追いこまれたって考えるんだ。実際、今アメリカのいろんな街で、住民の反対で原子力発電所が廃止になったり計画が中止になったりしてる。これも街作りの一つのありかただろう。

 メルトダウンが起きると周辺が放射能で汚染される。これはかなり広範囲にわたる。放射能汚染された地域はまったく使いものにならなくなるけれど、100年たつとその範囲は半分に減る。半減期が100年って思ってくれればいい。例えば最初の100の区域が汚染されたとしたら、100年後にその数が50に減り、次の100年後にその数が50に減り、次の100年で25に減るってわけだ。なんにしても放射能の影響は怖いんだ。原子力発電所が本当に必要かどうか、リスクと比べてよく考えてみて欲しい。
Detroit
 シムシティーでは、たいていの問題はプレイヤーの街作りに原因があるようになっているのだけれど、中にはまったくプレイヤーに責任がない問題もある。このデトロイトの問題はその一例だ。

 街を支える経済は、街の内部の市場状況と外側の市場状況の二つの要因の影響を受けることになっている。商業地域は内部の市場状況の影響を受ける。そして工業区域は街の外側の市場状況の影響を受ける。それぞれの市場が好調なら、地域も栄えて雇用数が増える。逆に不調なら雇用数は減る。
 この街の外部の市場状況っていうのは、早い話が世の中の景気がいいとか悪いって話で、ようするに世の中の景気がよければ、その街の工場にもたくさん注文がくるってことを表している。で、これに関してはプレイヤーはなにも行えない。外の世界の影響を受けるだけってわけだ。

 デトロイトのシナリオは、街が世の中の景気の影響を直接受けた場合がテーマになっている。街の経済の根本になっている自動車産業が傾いたら、街そのものも大きな影響を受ける。工業地域の人口は減り、雇用不足が発生し、治安がどんどん悪化する。社会問題の原因が世の中の景気ってわけだから、それまでの街作りの方向性を変えて、別の方法で街を立て直すしかないわけだ。
 このシナリオはかなり難しいほうだと思う。雇用不足は外部要因なので工業地域の発展はそれほど望めない。街を再建させるためには、多少工業地域を削って商業地域を増やしていかなければならない。同時に犯罪対策としては、警察署の増設と地価の上昇対策が必要になる。目に見える災害がないだけに、こういう問題のほうが対処しづらい。最終的には地価対策が重要になるだろう。
Bern
 交通問題を扱うベルンのシナリオは、それほど難しくないシナリオの一つだろう。それでも、ここの渋滞はものすごい。交通問題だけじゃなくって、すぐに環境問題にもつながってしまう。
 この交通問題に対応するためには街の再開発が必要だ。地図を見てもらえばわかるとおり、周辺には空いている土地があるのだから中心部に少し余裕を作って周辺へ区域を動かすことが考えられる。

 このシナリオで道路を全部鉄道に置き換えるという方法を取る人がずいぶんいる。実際これは渋滞対策としてかなりうまくいくけれど、かなり資金も必要になる。この街は川が曲がりくねっているので、水辺の地価の高い土地をうまく利用して税収を上げないと資金が苦しいだろう。
 それと、警察署がかなり配置されていて犯罪率が抑えられているけれど、ここにまわす予算を削るって手もあるかもしれない。
Rio de Janeiro
 リオデジャネイロのシナリオは難しいはずだ。なにしろ、シムシティーでは洪水にはなにも対策がない。火災と違って被害を最小限に食い止めることができないんだ。
 このシナリオでは、まず洪水の被害が終わらないとなにもできない。トリックもほとんど通用しない。ポーズをかけても、再開すれば洪水はまた広がってしまう。

 シムシティーの中で、洪水はプレイヤーに責任がない数少ない災害の一つだ。人間にはどうしようもないこともあるってわけだ。
Hamburg
 ハンブルグシナリオは火災の対応が鍵だから、ポイントとしてはサンフランシスコと同じことが言える。爆撃されたところの周囲を整地してしまい、延焼をふせぐのが鍵だ。それともう一つ、ハンブルグは消防署が少なかったので、事前に配置しておくって手もある。予算は最初な0にしておいて、爆撃されて火災が起き始めたら予算をつける。これでもちゃんと消火活動をしてくれるはずだ。爆撃が終わったらまた予算を削れば資金難にはならないと思う。

 これもサンフランシスコと同様で、災害の後ろの街作りには色々な方法があると思う。戦後の復興をいろいろ試してみて欲しい。
サンフランシスコと東京
僕のサンフランシスコ観
 とにかく歩き回っていろいろ探検する場所に事欠かない
 サンフランシスコっていうのはとにかく興味ぶかい街だ。すごくきれいだし、半島の先端っていう地理もかなり変ってる。おかげでとっても景色はいい。
 ここは気候もすごしやすい。夜は多少冷えるけど、滅茶苦茶に暑くなることはない。夏でもクーラーなしで十分すごせるからね。もっとも、気候に関しては、僕と違う意見を持ってる人もいる。サンフランシスコの天気はいつもかわり映えしなくって退屈だっていうんだ。たしかに、サンフランシスコには台風がくることは滅多にないし、雷も少ない。たぶんアメリカの中で、いちばん雷が少ない地域の一つなんじゃないだろうか。まあエキサイティングな天候をお求めなら、サンフランシスコは向いてないかもしれない。

 文化的な面から見ても、サンフランシスコは面白い街だ。ここの歴史はかなり古い。昔この近くで金が出て、それを目当てに人が集まった。これをゴールドラッシュっていって、この時にやって来た連中のことをフオーティーナイナー(49ers)っていうんだ。ちょうど1849年のことだったんでね。だから、サンフランシスコの一番古い部分っていうのは、このころから栄えてた。ところが、これが1906年の大地震で大きな被害を受ける。で、そのあとに、今度はまた違う文化を持った人達がやって来た。こうしてサンフランシスコにはいろんな時代のいろんな文化が混ざるようになったんだ。
 今では、サンフランシスコを少し南に行った谷の方、シリコン・バレーっていわれるあたりに、時代の最先端を担うコンピュータ産業の人々がたくさんいる。歴史がありながらモダンでもあり続けるってわけだ。

 僕自身にとっても、この街は面白いところがたくさんある街だ。とにかく歩き回っていろいろ探検する場所に事欠かない。湾岸沿い、フィッシャーマンズワーフなんていう街でいちばん古いあたり、マーケットストリートも散歩するにはいいところだ。僕がいちばん気に入っているゴールデンゲートパークは、きれいに整備されてるしデザインもとってもいい。ニューヨークのセントラルパークより規模は少し小さいけど、こっちの方が安全だ。
 全体的にサンフランシスコはこじんまりとまとまったきれいな街って印象がある。だけど、この街は一つのイメージの街ってわけじゃなくって、いろいろ異なった印象を持つ小さな部分がたくさんある街なんだ。チャイナタウン、ジャパンタウンなんかがその代表だ。歴史があるところもあれば、ハイテク産業が集まってるところもある。なんでもある街って感じだ。おまけに、天候も歩き回るのにちょうどいい。これが僕がサンフランシスコを気に入ってる理由ってわけだ。

アスレチックスかジャイアンツか
 どこで一番多くの時間を過ごすか、それによって自分の街は決まってくる
 「街とはなんだろう」の中で、サンフランシスコ全域、いわゆるベイエリアは一つの大きな街って考えたほう理屈にあってるってことを書いた。ところが、実際に住んでいる僕らにとってみると、サンーフランシスコとオークランドっていう二つのエリアにはやっぱり少し違いがある。
 サンフランシスコとオークランドは、サンフラノシスコ湾を挟んで対峠している。この湾は、ベイブリッジを車で走ればほんの数分で渡れてしまう。ところが、この橋の向こう側とこっち側っていうのは僕らにとって大きな違いがある。ようするに、広大な水って要素が、精神的な障壁になってるんだ。

 前にも書いたけど、このベイエリアには、サンフランシスコ・ジャイアンツとオークランド・アスレチックスっていう野球のチームが二つある。当然、サンフランシスコにはキャンドルスティックパーク、オークランドにはオークランド・スタジアム、それぞれの本拠地がある。街にスタジアムが二つあるわけだ。僕自身はそれほどスポーツのファンじゃないけど、それでもアスレチックスを応援する。
 ベイエリア全域はまちがいなく一つのメガロポリスだ。だけど、スケールがこんなに大きくなってしまうと、住んでる個人は全体を一つの街、自分の街っていう風に考えられなくなる。それで、自分に身近なエリアを自分の街って考えるんだ。
 僕にとってはパークレイが自分の街、そしてオークランドは自分のいるエリアってことになる。サンフランシスコには用があれば出かけるし、たまには公園に遊びに行ったりもする。それでも月に何回って数えられるぐらいだ。

 どこでいちばん多くの時間を過ごすか、それによって自分の街は決まってくる。だからたとえオークランドに住んでいても、橋の向こうまで行くことが当たり前の人なら、もしかするとジャイアンツを応接するのかもしれない。
僕の東京観
 どこまでも同じ規模の街が広がっている
 アメリカの街っていうのは、郊外からダウンタウレヘ向かうにつれてどんどんビルが高くなり、また郊外へ向かうにつれて低くなっていく。ところが、東京ではビルは次第に高くなっていって……低くならない。同じ方向にずっと走っても、ビルはちっとも低くならないで同じ高さを保っているんだ。東京っていうのはものすごく大きな街だって気がする。

 例えばニューヨークはアメリカを代表する大都会だけど、この街では重要なポイントが特定の場所に集中している。あの狭いマンハッタンのタイムズスクエアの数ブロックに高いビルが集中してるんだ。
 ところが、東京は高いビルが一箇所に集中していない。新宿、銀座みたいな地域が、それこそ東京中に広がってる。この規模の広さはほんとに驚きだ。

東京の交通問題
 東京にはこれ以上道路を作る場所はなさそう
 東京シナリオでは環境汚染をテーマにしたけれど、最近の東京は交通問題の方が深刻だって話を聞く。たしかに、僕が前に東京に行ったときも、ほんのちょっとタクシーに乗ったら渋滞に巻き込まれて、結局歩いた方が早かったってことがあった。でも、僕から見ると、東京の交通機関っていうのはとってもうまく機能してるような気がする。
 大量輸送機関は多くの人が利用してるし、時間は正確だ。これはきっと安全なんだろう。もしこれからなにか手をうたなきゃいけないんだとしたら、さらに大量輸送機関を拡張することしか考えられない。なにしろ、東京にはこれ以上道路を作る場所はなさそうだからね。

 日本で見たものでいちばん驚いたのは新幹線だ。あんなにすごい大量輸送機関は見たことがない。速いし乗り心地はいいし便利だ。東京はさっきも書いたけどすごく規模が広い街なんだから、例えば街の中で新幹線を走らせればいいかもしれない。街を一周する鉄道はあるけど、ちょっと停車駅が多すぎるみたいだから、例えば新幹線を走らせて駅は5つぐらいにしか止まらない急行にしたらどうだろうか? そうすれば、重要なところ、どニヘ行くにも10分ぐらいしかかからないってことになる。 もちろんあんまり速いと脱線するかもしれないから、線路は少し傾斜してなきゃいけないかもしれないけど。

ウィル・ライト 著 多摩豊 訳  「ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて」より 

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