“大きな街は難しい” By Will-Wright


ウィル・ライト 著 多摩豊 訳,ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて,角川書店,1991

街には問題が起きる
 街の中心部とベッドタウンを結ぶ道路は絶対に渋滞になるだろう
 人口が増えて街が大きくなる。これは基本的にはいいことだ。街が大きくなればそれだけいろいろな活動が活発になり、街の機能も増えていく。小さい街にはないようなもの、たとえばスタジアムや飛行場も、街が大きくなれば維持できるようになる。街のスケールが大きくなれば経済規模も大きくなり、税収が増えるから住民に対するサービスだってよくなる。だけど、いいことばかりってわけじゃない。

 「街とはなんだろう」のところでも書いたけれど、街にとって悪いことっていうのは、そこに住む人々の活動をなんらかの形で妨げるもの、住んでいる人々にとってなんらかの不便を生み出すような要素のことだ。そういったことがなに一つなければ理想的な街ってことになるんだけれど、これはまず不可能。どんな街にも必ず不便な部分はある。

 それでも、街のスケールが小さければ不便の度合も小さいので、問題もそれほど気にならない。ところが、街のスケールが大きくなると、それにあわせて問題も大きくなる。こうなると問題を無視するわけにいかなくなる。

 たとえば、交通渋滞だ。街が小さいころは、道路が渋滞するほど交通量は多くない。もしかすると動く距舞の問題なんかはあるかもしれないけど、この段階だと交通問題を気にする必要はない。
 さて、この街が大きくなると、交通量も増える。ところが、道路の量は交通量に比例して増えるってわけじゃない。で、交通渋滞が生じることになる。
 交通量の増大にあわせて道路を増やしたとしても、たぶん渋滞の問題は解決しない。交通問題はそんなに単純じゃない。街の中心部とベッドタウンを結ぶ道路は絶対に渋滞になるだろうし、工業地域と港の間も交通量は多いだろう。

 こういった問題は、街が大きくなって活動が活発になったために生じるわけだけれど、これはある意味で街にとっては宿命なのかもしれない。

シムシティーの街の問題
 ごく普通に街作りを進めていけば、いろんな問題が起きるのは避けられない
 シムシティーはできるだけリアルに街のシステムをシュミレートしようとしているから、街にとって不都合な状況も当然シュミレートしている。

 シムシティーの街には、火事、地震、洪水、竜巻、原発事故、犯罪、交通問題、失業、環境汚染などの問題が用意されている。自然災害の中にはまったく偶然に起きるものもあるけれど、たいていの問題はそれまでの街作りが原因で起こる。とはいえ、一つ二つ問題が起きたからといって、それまでの街作りの方針が特別に悪かったということにはならない。ごく普通に街作りを進めていけば、いろんな問題が起きるのは避けられないだろう。もっとも街が問題だらけになったとしたら、それはやっぱり街作りの方針が悪かったのかもしれない。

 さて、自分の街がどんな問題を抱えているか、これを調べる方法もいくつかある。
 まず評価ウィンドウをチェックすると、シムたちがなにに不満を持っているかが表示される。さっきも説明したように街の問題っていうのは住民が不便を感じることだから、ここで表示されることは全部問題ってことになる。とはいえ、不満に思っているシムの割合があまり多くない問題は、それほど気にかけなくてもいい。

 もっと具体的に問題を調べる方法としては、マップ・ウィンドウを活用する手がある。たとえばマップ・ウィンドウの交通渋滞の図を見れば、街に交通問題があるかないかだけじゃなくてどこに問題があるかまで判明する。これは犯罪発生率でも同じ。問題の起きる場所まで特定できれば、対策をたてるときに役にたつ。問題はできるだけ早めに発見した方がいい。早期発見、早期治療というわけだ。

一般的な対応策はあるか?
 すべての鍵はランドバリューにある
 問題を発見したあとは対策を練るわけだけれど、ある程度大きくなった街の問題にすぐにきくような特効薬はない。

 「シムシティーの仕組み」で説明したけれど、このシステムではいろんな要素が複雑に関係しあっているので、街が大きくなってしまうと、どの要素がなにに影響しているかすぐにはわからない。たとえば環境汚染の原因が工場なのか港なのか、それとも付近の交通渋滞なのか、これは問題になっている街を見て、そのうえでいくつかの要素を付け加えてみたり取り除いてみたりしないとわからない。ようするに、ある問題に対する絶対的な対応策っていうのは存在しないのだ。

 とはいえ、御作りと都市の問題って大きな視点から見た場合、一つだけはっきりいえることがある。それは、すべての鍵はランドバリュー(地価)にあるってことだ。ランドバリューは、その土地がどれぐらい効率的に利用されているかを抽象的にあらわしたものだと思ってほしい。ランドバリューの高低は、その場所がどれくらいうまく使われているか、街にとってどれくらい役だっているかを示している。ランドバリューが高ければ、それだけその土地はうまく使われているってことで、低ければもっといい使い方があるってことを示している。これはシムシティーのさまざまなところに影響を及ぼしている。

 たとえば、シムシティーでは税金の収入がいくらになるかは、人口と税金、そして街のランドバリューで決まるようになっている。ランドバリューが高ければ、それだけ税金の収入も増える。
 ごく普通に考えた場合、街の運営資金を増やすためには税率を上げればいいように思える。ところが、税率が高いと住民から不満の声が上がるし、場合によっては人口が減る原因にもなる。そこで住民に不満を持たれずに税収を上げる方法として、ランドバリューを上げることが考えられるわけだ。

 ランドバリューは犯罪発生率、環境汚染度、街の中心からの距離、の三つの要素の影響を受ける。で、この三つの要素はそれぞれ他の要素や状況の影響を受けるので、街に起きるすべての状況は、最終的にランドバリューにフィードバックされることになる。
 人口密度が高まれば犯罪発生率が増し、それがランドバリューを下げる。警察署があると犯罪発生率が下がってランドバリューは上がる。工場が環境を汚染すればランドバリューは下がり、公園や水はランドバリューを上げる。いろんな要素や状況は、結局ランドバリューを上げたり下げたりすることにつながってくる。

 さて、ここで考えて欲しいのが、いわゆる悪循環ってやつのことだ。
 たとえば、ある土地で犯罪が多発したとしよう。すると当然その土地の価値は落ちる。で、環境が悪くなればより犯罪の発生率は増す。どんどん悪い方へ進んでいく悪循環である。
 シムシティーはこの悪循環もシミュレートしていて、犯罪発生率が上がるとランドバリューが下がり、ランドバリューが下がると犯罪発生率は上がるようになっている。街に起きる問題というのは、多かれ少なかれこの悪循環が原因ってことになる。ということは、街の問題を解決するには、どこにどんな悪循環が起きているかを発見し、その循環を止めて逆回転させてやればいいってことになる。具体的にいうと、問題になっている場所のランドバリューを上げれば、問題もそのうちに解決する。

 ―つ一つの問題にはそれ相応の解決策があるはずだけど、ごく一般的な対応策といえばこのランドバリュー対策に尽きることになる。

悪循環を断ち切るには
 場合によっては、環境対策が犯罪発生率の低下に結びつくこともある
 それじゃあ、さっき例に出した犯罪発生率とランドバリューの関係を使って具体的に考えてみよう。

 なんらかの理由で犯罪発生率が上がる。これはその土地のランドバリューを下げるから、また犯罪発生率が上がる。これが悪循環だ。
 いちばん根本的な対応策は、犯罪発生率が上がった原因を究明して、それをなくしてしまうことだろう。原因がなくなることによって犯罪発生率が下がれば、それで問題は解決する。

 ところが、シムシティーで犯罪発生率が上がる原因として考えられることの一つに、人口密度が高いってことがある。これは日本と少し違うところかもしれないけれど、アメリカではロサンジェルスやニューヨークなど、人口密度が高いところは犯罪も多いことになっている。犯罪発生率と人口密度には明らかに関係があるんだ。もし原因がこういったものだと、対応もちょっと厄介になる。

 さっきの例で、犯罪発生率が高いことの原因が人口密度の高さだったとすると、この問題を解決するためには人口密度を低くしなければならないことになる。ところが、人が集まっているところの人口密度を落とすっていうのはなかなかできることじゃないし、できたとしてもあんまりやりたくはない。人ロ密度はある程度高くて、そのうえランドバリューも高い。こういうのが理想といえば理想だ。で、犯罪発生率を抑えるために、いろんな要素や状況と犯罪発生率の関係を検討することになる。
 たぶんいちばん即効性がある手段は、近くに警察署を作ることだろう。ただ、これはかなり資金がかかるし、おまけにいったん作った後は、毎年予算も与えてやらなければならなくなる。そうしょっちゅうは使える手じゃない。

 次に考えられるのは、周辺のランドバリューを別の方法で上げて、その結果として犯罪発生率を落とすという逆回りの手法だ。たとえば問題になっている場所の近くに公園を作る。公園は周辺のランドバリューを上げる効果を持っているので、これは間接的に犯罪発生率を下げることにつながってくる
 また、もしそのあたりの環境も汚染されている場合、環境汚染を少なくすることによってランドバリューを上げ、その影響として犯罪発生率が落ちることを期待するという、さらに遠まわりの手法も考えられる。犯罪発生率を下げるために環境対策をするっていうのはなんとなくおかしい気がするかもしれないが、実際にそれがうまくいく場合だってある

 もっとも、これはたまたま問題になった場所の環境が汚染されている場合にしか通用しないので、いつでも使える手というわけじゃない。問題に対して一般的にきく特効薬はないといったのは、まさにこういうケースがあるからなんだ。とにかく、こういった手法は効果が出るまでに時間がかかる。すぐに対応しなきやならない問題の場合は、即効性がある方法を考えなくてはいけないだろう。

 これらの手段がどれもうまくいきそうにない場合、最後に考えられるのが再開発だ。これは問題になっている場合の周辺をまったく違う形に作りかえてしまうような対応だけど、大きな改革が必要ってことはよくある。特に街のいちばん古くからある地域なんかに問題が発生した場合、再開発をしたほうがいいケースは結構多い。

 再開発に乗り出せば、問題の原因もなにも全部なくなってしまう。そこで新しい問題を発生させないように気をつければ、特に難しいことはないだろう。とはいえ、これにもけっこう資金がかかる。街がある程度大きくなれば必ず再開発が必要な場所も出てぐるのだから、そのための資金的余裕は持ってた方がいいかもしれない。問題に対処するためには結局、資金も必要ってわけだ。

交通問題に関して
 道路が増えることによって、道路を使おうとする市民の数もまた増える
 プレイしていて必ず出会うのが交通問題だ。これはどんな街でも避けようがない問題だと思う。

※トリップ・ジェネレーション(trip generation)・・・あるゾーンの起点から生じる交通量のことで、交通目的ごとに各ゾーンの土地利用に基づいた社会経済指標を用いて推定される。発生交通量。
佐佐木綱 監修・飯田恭敬 編著
「交通工学」より
 シムシティーでは、交通をトリップ・ジェネレーンョン(※)という方式でシミュレートしている。
 ジムシティーの住民は、居住地域にいる者は商業地域か工業地域、商業地域にいる者は居住地域か工業地域、工業地域にいる者は居住地域を目的地として出かける。もし目的地につけないと、お出かけは失敗したことになって、この失敗が度重なると交通問題への不満が増える。住民が一回のお出かけでどれくらい遠くまで行けるかは決まっているのだけれど、もし道路が混雑しているとこの距離はどんどん短くなる。ようするに目的地につけない可能性が増すわけだ。というわけで、交通機関が混雑すれば、それだけだけ交通が不便であることになる。

 交通問題の原因を一言でいえば、街の交通機関が処理できる市民の数より、どこかへ行こうとする市民の方が多いことにある。だからこれを解決するためには、市民が交通機関を使う量を減らすか、街の交通機関が処理できる数を増やせばいい。
 もちろん市民の交通に制限を加えることはできないから、結局交通機関、ようするに道路や鉄道を増やすってことになる。ただ、ここで気をつけなきやいけないのは、単に道路を増やしただけじゃ交通問題は解決しないってことだ。

 道路が増えれば交通の量も増える。ところが、道路が増えることによって、道路を使おうとする市民の数もまた増える。今までは道路がなかったので出かけなかった市民が、新しい道路ができたことによって外出するケースも結構あるってわけだ。こうなると、やっぱり一般論は通用しない。どんなところなら道路を作れば問題が解決し、どんなところでは別の手段を考えなければならないか、これは道路がどの要素の近くに作られるかによって変わってくる。

 たとえば居住地域、これは常に交通を発生させる原因だから、この近くに道路を作れば必ず交通量も増す。問題は住民が行きたがっているところにつけるかどうかってことで、住民の目的地になる地域を近くに作ってやれば、交通機関を増やさなくてもすむケースもある。
 逆に、工業地域が街の一箇所に集中していて、そこまで行く道路をこれ以上増やせないような場合は、大量交通機関を用意する必要があるだろう。居住地域が集まっているところと工業地域が集中しているところに一本鉄道を引くだけで、交通状態を大きく改善させる可能性もある。

 なぜ渋滞が起きているのかを理解したうえで対応しないと、交通問題を解決することはできないかもしれない。


ウィル・ライト 著 多摩豊 訳  「ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて」より 

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